紗倉まなが明かす、「究極の自分を見てみたい」という願望 『夕方のおともだち』の共感性
“介護”と“SM”に共通する覚悟
――紗倉さんは快楽に対しては貪欲ですか?
紗倉:貪欲な方だと思います。言い方が悪いですけど、特に人を使って解消したいと思ってしまうというか……(笑)
――それはSなんですか? Mなんですか?
紗倉:ヨシダに近いのかなと思います。自分勝手な欲望を相手に突きつけて女王様が受け入れてくれるような、ああいう構造を人に提示しがちというか。だからこそ自分が転じることのできない女王様という存在に憧れるのかもしれないです。
――プレイの最中にヨシダが醒めている場面が何度も出てきますが、あれは女王様の立場からすると……。
紗倉:MあってのSなので、やっぱり傷つくと思います。互いに引き立て合うことでしかSとMは発揮されない。だからMの人が「ちょっとそういう気分じゃないから」と言われたら、その関係は崩壊する。
――ただ、この作品では、ヨシダがミホ女王様に悩み相談をすることで別の関係が生まれますね。
紗倉:明確な言葉で言い切れる関係じゃないところが面白いですよね。なにかの予行練習をしている2人みたいな(笑)。だから“女王様になりきれない女王様の話”なのだと思います。
――紗倉さんが書かれた、老人男性を主人公にした小説『春、死なん』(講談社)は「夕方のおともだち」と近いテーマを扱っている話なのかなと思いました。
紗倉:行き場のない「彷徨っている性欲」という意味では近いのかもしれないです。自分の欲望が枯渇するのは認めたくない。現役の時に戻りたいみたいな。
――男性主人公で書く時と女性主人公で書く時では、小説の書き方は変わりますか?
紗倉:男性の方が書きやすいのかもしれません。自分から離れている存在の方が自由に書けるというか。実は性別に対する意識はあまりなくて。自分の悩んでいることを同じように男性も悩んでいると思うこともありますし。相手から「理解されない」ということに悩むことは男女共にあることだと思うんですよね。
――小説家として、ヨシダみたいな人は書いてみたいと思いますか?
紗倉:何かに執着していたり、何かに貪欲であったりという人とは関わることは避けがちなんですけど、見ていて面白いので、人として興味は湧きますね。小説に書いたら面白そうな人が映画に出てくると見入っちゃいます。
――紗倉さんの小説には母親がよく登場しますが、ヨシダと母親の関係はどう思いましたか。
紗倉:ユーモア&ホラーみたいな感じですよね。ヨシダにとって重要な存在なのに、説明されていない空白の箇所が多かったのが、正体不明の不気味さが終始漂っていて良かったです。
――母親は気になる存在ですか?
紗倉:私の母親は友達には絶対になりたくないタイプの人間で、相性も良いとは言えなくて、要するに人としてはあまり好きじゃないんですよ。でも母親としてはすごく好きで、母親だからつながっていられるし尊敬できる。だから縁として切れない。
――母親を介護するヨシダもそうなのかもしれませんね。
紗倉:吐瀉物や排泄物も含めての関係ですからね。SMもそこまで行くじゃないですか。「見離せない」という覚悟がないと介護もSMもできないですし。対等に見えて対等じゃないけどつながっているという関係には、すごく惹かれますね。
■公開情報
『夕方のおともだち』
2月4日(金)より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開
出演:村上淳、菜葉菜、好井まさお、鮎川桃果、大西信満、宮崎吐夢、田口トモロヲ、AZUMI、烏丸せつこ
監督:廣木隆一
脚本:黒沢久子
エンディングテーマ:大橋トリオ「はじまりの唄」
配給:彩プロ
R-18
(c)2021「夕方のおともだち」製作委員会
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