『スパイダーマン』に刻まれた珠玉の名台詞 ピーター・パーカーと親愛なる隣人に寄せて

 「全ての運命が集結する」――キャッチフレーズ通りの展開に心震わされた『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。MCU版『スパイダーマン』3部作の区切りとなる作品らしく、マルチバースから登場したヴィランたちとの戦い、懐かしいキャラクターたちとの邂逅のみならず、主人公ピーター・パーカー(トム・ホランド)の友情、優しさがもたらす困難と苦悩、“兄弟”たちとの絆、大いなる喪失とヒーローの孤独、そして彼の成長が存分に描かれている。

 ここでは、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で印象に残った劇中の言葉を書き記してみたい。もちろん完全ネタバレである。

二つの人生を同時に生きようとしているが、このまま続けると危険が増えるぞ
by ドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)

 ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)の奸計により、スパイダーマンの正体がピーターであると暴露されてしまった。ドクター・ストレンジはピーターの頼みを聞き、魔術でスパイダーマンの正体に関する人々の記憶を消そうとする。しかし、ピーターの邪魔によって呪文は失敗に終わり、ドクター・ストレンジは彼に予言めいた警告を与える(その後、やるべきことをやっていなかったピーターはド叱られる)。

 「二つの人生」とは、恋や友情、まわりの人たちの協力を得たピーター・パーカーとしての人生と、アベンジャーズにも加入したヒーロー・スパイダーマンの人生のこと。ピーターはやがて大きな選択を行うことになる。

するべきことは、人助けよ
by メイ・パーカー(マリサ・トメイ)

 呪文の失敗によって、マルチバースからヴィランが次々とやってきた。そのうちの1人、ノーマン・オズボーン(ウィレム・デフォー)は、別人格のグリーンゴブリンから逃れ、スパイダーマンを頼ってメイおばさんのボランティア施設を訪ねる。

 あわてて駆けつけたピーターは、彼を元の世界へ戻すのがベストと主張するが、ホームレスなどを支援する慈善活動を熱心に行ってきたメイおばさんはピーターに彼らを助けるよう説く。

待って、それだ! 彼らを変えれば運命も変わる!
by ピーター・パーカー

 ドクター・ストレンジはヴィランたちを元の世界に戻そうとするが、元の世界に戻れば彼らはやがて死んでしまう運命。ドクター・ストレンジは「運命は変えられない」と冷厳に語るが、ピーターは彼らを死の運命から救おうとする。ピーターは愛するメイおばさんが期待する人間になろうとしているのだ。

あなたは正しかった。帰したら彼らは殺された。あなたは正しい。
by メイ・パーカー

 グリーンゴブリンが破壊活動を行った結果、メイおばさんは瀕死の重傷を負う。しかし、彼女はノーマンを助けたことを後悔していなかった。そして、彼らを助けようとしたピーターの選択と行動を「正しかった」と称える。

 ピーターはグリーンゴブリンから「お前の弱点は人の良さだ」「人助けってのは、かえって仇になるもんだ」と言われていたが、メイおばさんのこの言葉が砕けそうになっていた彼の心を辛うじて支えることになる。

ピーター、よく聞いて。あなたは特別な子。パワーを持ってる。大いなる力には、大いなる責任が伴うものよ。
by メイ・パーカー

 死の間際、メイおばさんは自責の念に駆られるピーターの腕の中で、最後の言葉を遺す。それが「大いなる力には、大いなる責任が伴う」だった。これはスパイダーマンが登場するマーベル・コミック作品の登場人物、ベンおじさんの有名な言葉であり、『スパイダーマン』という作品全体を貫く大きなテーマである。サム・ライミ版『スパイダーマン』でも、ベンの口からこの言葉が告げられていた。ピーターにとっての“ベンおじさん”は、メイおばさんだったのだ。

 ピーターは『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で、スカウトにやってきたトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)に、「自分に何かできるのに、しなかったせいで悪いことが起きたら、自分のせいだと思う」と語っていた。この言葉は「大いなる力には、大いなる責任が伴う」の変奏であり、ピーターがスパイダーマンである自覚を持っていたことを示している。すでに自分を育ててくれたメイおばさんからの影響を強く受けていたのかもしれない。

関連記事