ロレンツォ・マトッティ監督が影響を受けたアニメと映画は? 『クマ王国の物語』制作背景

 遠い昔、イタリアのシチリアがクマに征服されていたことがあった。そんな奇想天外な児童文学『シチリアを征服したクマ王国の物語』がアニメ化された。原作の作者は、幻想的で不条理な作風から「イタリアのカフカ」とも呼ばれるディーノ・ブッツァーティ。脚本と監督を務めたのは、イタリア生まれで現在はフランスを拠点に活動するグラフィック・アーティスト、ロレンツォ・マトッティだ。

ロレンツォ・マトッティ
ロレンツォ・マトッティ

 これまでマトッティは、イラスト、バンドデシネ(フランスのコミック)、絵本、アニメなど様々な分野で活躍して高い評価を得てきた。魔法使いや人食い猫などが登場する童話めいた物語の中に、戦争や権力など様々なテーマを盛り込んだ原作を、マトッティはカラフルな色彩と軽やかな語り口でアニメ化。日本やアメリカのアニメとは違った独自の世界を生み出した。その「生きた絵本」のような作品は、どのようにして生まれたのか。マトッティに話を訊いた。

「語る喜び」をアニメでも伝えたい

ーーディーノ・ブッツァーティの原作をアニメ化するにあたって、何か心掛けたことはありましたか?

ロレンツォ・マトッティ(以下、マトッティ):ブッツァーティは以前から大好きな作家で影響を受けてきました。私がこれまで作った短編アニメでも、ブッツァーティ的な雰囲気を醸し出していたんです。ブッツァーティはシリアスで深いテーマをとても軽やかに描くことができる。貴族的というか優雅な語り口を持っています。アイロニカルなところもあるけど、読者は楽しみながら読むことができるし、同時にそこで描かれていることについて考えさせてくれます。ブッツァーティの小説にある「語る喜び」をアニメでも伝えたいと思いました。

ーー今回の映画では原作にはいない旅芸人が登場して、彼らが物語を語るという設定にしたことで物語の寓話性が強まりましたね。

マトッティ:本作のようにドラマティックでインパクトがある題材を描く時は、寓話的なタッチの方が物語に入りやすいんです。人生の厳しさや大変さをリアルに見せようとすると観客はあまり喜ばない。でも、メタファー(比喩)やシンボル(象徴)をうまく使って寓話的に描けば、物語を受け入れてもらいやすくなる。人間の生きている世界は混沌としているので、メタファーやシンボルを使ってわかりやすくすることで状況が理解しやすくなるんです。

ーー原作ではブッツァーティは自分で絵も描いています。その絵をアニメにする時に心掛けたことはありますか?

マトッティ:大切にしたのはディテールです。木の描き方といった自然描写、様々なキャラクター、絵の構図などのディテールを大切にして、ブッツァーティの絵が持っている素朴なタッチや軽やかさを失わないようにしました。そうすることで、生命を宿した絵本のようなアニメにしたいと思ったんです。原作には語られるべき大きなストーリーがあります。それをグラフィカル(絵画的)に語りたいと思いました。

ーー確かにグラフィックを大切にした作品ですね、クマをはじめ登場人物にシルエットが描かれて、まるで木彫りの人形みたいに柔らかな立体感を生み出しています。

マトッティ:シルエットと柔らかな質感は私自身の作風なんです。私は絵を描く時、いつも楽しい雰囲気を生み出すことを大切にしてきました。だから今回の作品では、クマたちは木彫りの人形みたいだし、魔術師はマリオネット、兵士たちはおもちゃの兵隊のように描かれているんです。この物語はシリアスなテーマを扱っていますが、子供がごっこ遊びをしているような楽しい語り口にしたいと思いました。戦争シーンを描いていても、子供がおもちゃで戦争ごっこをしているような感じで軽やかに描きたかったんです。そして、スタッフ全員で絵に立体感を生み出すように努力しました。すべてのキャラクターにシルエットをつけたんです。そして、風景も立体的に描いて劇場のようにして、イタリア喜劇や仮面劇のような雰囲気を出しました。そこに登場人物が生き生きと存在しているように見せたかったんです。

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