『シチリアを征服したクマ王国の物語』は世界を見通す一流の寓話だ 人の歴史の真実を紡ぐ

『クマ王国の物語』は世界を見通す一流の寓話

日米アニメーションとは異なる色彩感覚

 見事な物語構成もさることながら、本作の視覚表現は観る者を唸らせる。イラストレーターやバンドテシネ作家としても活躍したロレンツォ・マトッティ監督の美的センスは日本やアメリカのアニメーションとも異なり、美術の本家であるヨーロッパの美的センスを存分に汲んでいる。

 感心するのは色使いだ。絵画にとって色とは、写実を再現するにとどまらない役割を担っている。本作の空は場面によって青くも黄色くもなり、自然も緑から黄色、夜には青くもなる。クマたちが攻め入る城の色が目まぐるしく変化するさまは、戦闘の混沌と激しさを物語る。変幻自在に感覚的に変化する色使いが眩惑的に観客を魅了する。

 アニメーションも大変に気持ちのよい動きばかりで魅力的。軽やかに踊りながら語る道化師たち、人とクマの激しくも愉快な争い、白いゴーストとクマが織りなすダンス、巨大な化け猫や大蛇の怪物なども登場しスペクタクルなシーンも満載。キャラクターたちだけでなく、その影もまた雄弁な動きで多くを語る。監督自身がオーソン・ウェルズに影響されたと語る伸びた怪しげな影は快活なキャラクターたちの別の側面を伝えている。華麗で豊かな色彩の画面に伸びる大きな闇としての影が本作の多重性を視覚的に表す。

 鮮やかな色彩のアニメーションで紡がれるこの物語が教えてくれるのは、人の歴史の真実だ。どんな権力者も「驕れる者も久しからず」だが、そんな中でもつつましい幸せが訪れる瞬間がある。旅芸人たちが征く、地平線の彼方に伸びる一本道のように、人間の歴史はそんな風に連綿と続いてきた。

 これはとても奥の深い教訓だ。子どもには難しいのではと感じる大人もいるかもしれない。しかし、世界の複雑さに真摯に向き合い、わかりやすく伝える本作は子ども向けではあっても決して子ども騙しではない。本作は、大人の観客にも子どもにも、必ず人生を豊かにしてくれる糧をもたらすはずだ。

■公開情報
『シチリアを征服したクマ王国の物語』
1月14日(金)より新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺にて公開
監督・グラフィックデザイン:ロレンツォ・マトッティ
脚本:トマ・ビデガン、ジャン=リュック・フロマンタル、ロレンツォ・マトッティ
日本語吹替版キャスト:柄本佑、伊藤沙莉、リリー・フランキー、加藤⻁ノ介、寺島惇太、堀内賢雄
制作プロダクション:プリマ・リネア・プロダクションズ、Pathe France 3 Cinema Indigo Film with Rai Cinema
アニメーション・スタジオ:3.0 studio
原作:ディーノ・ブッツァーティ『シチリアを征服したクマ王国の物語』(福音館書店刊)
提供:トムス・エンタテインメント、ミラクルヴォイス
配給:ミラクルヴォイス
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
フランス・イタリア合作/2019年/カラー/82分/ビスタサイズ/5.1ch/フランス語/原題:LA FAMEUSE INVASION DES OURS EN SICILE/日本語字幕:井村千瑞
(c)2019 PRIMA LINEA PRODUCTIONS – PATHE FILMS – FRANCE 3 CINEMA – INDIGO FILM
公式サイト:https://kuma-kingdom.com/
公式Twitter:@kuma_kingdomJPN

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