横川良明×佐藤結衣が語る『最愛』と2021年のドラマ 現代が求める本当の“キュン”を探る
リアルサウンド映画部では2021年の年末特集として、ドラマ評論家・ライター陣による「年間ベストドラマ10」企画を実施した。そして今回、2021年のドラマを振り返りつつ、2022年新ドラマに向けてライターの横川良明氏と佐藤結衣氏のドラマ対談企画を行った。両氏がそれぞれPlusParavi、リアルサウンド映画部にて毎週コラム連載を担当してた2021年10月期TBS金曜ドラマ『最愛』の魅力を振り返りながら、2021年印象に残ったドラマ、そして2022年注目しているドラマについて語り合ってもらった。(編集部)
『最愛』には「やられた!」の一言
ーー2021年の10月期ドラマでは2人とも『最愛』のコラムを担当されていましたが、終わってみていかがでしたか?
横川良明(以下、横川):楽しかったですね。満足度が非常に高いです。
佐藤結衣(以下、佐藤):毎話ラスト5分で一気に惹きつけられ、翻弄されっぱなしでした。
横川:『最愛』制作チームの強みは、出し惜しみをしないところ。物語の展開がカードを早く切っているから、一度、第5話あたりで最終回かなくらいの盛り上がりができて、でも第6話以降でパワーダウンするわけではなく、きれいに第2章として次の展開に繋げていましたね。
ーー毎週、犯人の推理も話題になりました。
横川:みんなが犯人はこの人しかいないだろうと思いつつ、でもこの人じゃないほうがいいなと心のどこかでは思って、いろんな説で推理してみるんだけど、結局、彼になってしまって。何話もあると連ドラのミステリーって犯人の予想がついてしまうので難しいんですけど、『最愛』はいちばん妥当な犯人なのに、安易に「はいはいわかってたよ」とはならないところが強かった。
佐藤:たしかに私も「どうか彼が犯人じゃありませんように」という気持ちが強くて、目を曇らせていたところがあったように思います。横川さんも「犯人は藤井(岡山天音)ということで」と書かれていましたね(笑)(参考:【ネタバレ】『最愛』もはや考察ではなく嘆願。犯人が大輝は嫌です! | PlusParavi)。
横川:藤井じゃないことはわかっているんだけど、藤井だと傷つかないからよくない? って(笑)。
佐藤:その藤井から最終回に、大輝(松下洸平)が問い詰められる展開になって「え!? 藤井、攻める側なんかい!」ってツッコまずにはいられませんでした(笑)。そしてストーリーそのものに引き込まれるのはもちろんなんですが、主題歌と物語の連続性というか統一された世界観もさすがの仕上がりでしたね。
横川:新井順子プロデューサー×塚原あゆ子監督チームの主題歌は、『アンナチュラル』(TBS系)の「Lemon」の頃から使い方に注目されてますよね。どのドラマもクライマックスに主題歌を流すのは定番ですけど、残り方が違う。
佐藤:新井Pへのインタビューで現場でも「テーマ曲を流している」と聞いたので、作品全体に染み込んでいるのかもしれませんね。それと、キャスティングについても絶妙でした。高橋文哉さんや田中みな実さんについては最初チャレンジングな起用だなと思っていましたが、結果的にお2人以外にはハマらなかった感じました。それくらいそれぞれのキャラクターに落とし込まれていたなと。
横川:メインキャストの松下洸平さんと井浦新さんの男性2人がしっかりとした人なので、サブにフレッシュな若手の俳優を起用する。そんなキャスティングの隙のなさを感じましたね。田中さんは、ご本人のパブリックイメージに近い役より、今回のしおりのような役の方が好きでした。
佐藤:正直、田中さんが演じたしおりを最初に見たとき、もともとの世間的に浸透しているイメージとの違いに無理をしているような印象を覚えたんですが、その違和感さえもむしろしおりの役柄とぴったりだったという……。「やられた!」の一言です。
横川:逆にパブリックイメージを再利用していたというか。女性として消費されている息苦しさを田中さんがなんとなく文脈として背負っていて、それが憎き渡辺康介(朝井大智)との背景に繋がっていた。途中からずっと悲しい顔をしていた田中さんが印象に残っています。表現の幅の広い人なのかなと、今後を期待したくなる姿を見せてくれました。