緒方恵美、『呪術廻戦 0』乙骨憂太役で新たな境地へ 清々しさすら感じた狂気の名シーン

 『劇場版 呪術廻戦 0』が、公開初日からの3日間で観客動員190万人突破、興行収入26億円を突破し話題となっている。TVアニメ『呪術廻戦』シリーズの前日譚で、劇中の主要な事件が12月24日に起きることから、それに合わせて12月24日に公開。感動のラストに涙する観客も多数いた。公開初日にはキャスト陣による舞台挨拶が行われ、主人公・乙骨憂太を演じた緒方恵美は、少し難しい役柄だったと語った。彼女は一体どのように演じたのか。本作における緒方の演技にスポットを当てその魅力を分析したい。

少年役に定評のある緒方恵美が新たな少年像を開拓

 『劇場版 呪術廻戦 0』は、アニメ『呪術廻戦』シリーズの主人公・虎杖悠仁たちが都立呪術高専に入学する前、先輩の禪院真希、狗巻棘、パンダがまだ1年生だった時の物語。ある日、パンダたちのクラスに特級過呪怨霊・折本里香に取り憑かれた乙骨憂太が編入してくる。そこへ里香の力を手に入れようとする夏油傑が現れ、戦いが巻き起こる。主人公である乙骨憂太を演じたのは、『エヴァンゲリオン』シリーズの碇シンジや『幽☆遊☆白書』の蔵馬など、数多くの少年役の名演で知られる緒方恵美。祈本里香は、『五等分の花嫁』の中野一花や『鬼滅の刃』の甘露寺蜜璃、『〈物語〉シリーズ』の千石撫子など、大人の女性から可愛らしい女の子まで幅広い演技で人気の花澤香菜が担当した。

 乙骨は呪術高専に転入する前の学校ではイジメに遭っており、もともと気弱な性格だった。しかし呪術高専で真希、狗巻、パンダという仲間と出会い共に切磋琢磨することで、自分の存在意義を見いだしていく。緒方は、物語の経過と共に成長していく乙骨の心の変化を声の演技で見事に表現し、今までとはひと味違う新たな少年像を開拓した。

 呪術高専に入った当初はオドオドしていた乙骨は、どこか他人事といった雰囲気で声も陰鬱として弱々しく感じた。しかし呪術高専に来て、真希、狗巻、パンダら自分を思いやってくれる存在との交流によって少しずつ心を開いていくと、声のトーンも明るく自信を持ったものに変わっていく。物語の序盤は慣れない環境に驚かされるばかりで、五条悟に振り回されるたびにツッコミを入れるシーンもある、その時の乙骨は実に人間味に溢れてユーモアたっぷりだ。

 おにぎりの具だけで会話をする狗巻を、最初はなかなか理解できなかった乙骨。それが不用意に人を呪わないためだと知り、狗巻の優しさやその奥にある苦しみに触れ、仲間のために戦うことを決意する。見事なチームワークで敵を退け、狗巻とハイタッチを交わすシーンもあり、一つの戦いの中で仲間を理解し成長する姿は感動的だ。緒方による声の演技からも、乙骨の中に信念が芽生えて力がみなぎっていく様子が感じられた。

 つねにコミカルな存在で場の空気を和ませてくれるパンダは、真希の乙骨に対する態度をことあるごとにチャカし、しばしば真希の怒りを買ってドタバタする。最初はパンダであることに驚きを隠せなかった乙骨も、パンダの人を気遣う優しさに自然と心を許し、パンダが作る賑やかな空気に乙骨の心も開かれていった。穏やかで充実した日々を送っていることが、乙骨の声のトーンにも表れた。

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