天才子役から演技派俳優へ マッケナ・グレイスが作家性の強い監督に愛される理由

監督に愛される俳優マッケナ・グレイス

 いつの時代にも、強い輝きを放つ天才子役がいる。1930年代に活躍したシャーリー・テンプルをはじめ、90年代以降で言えば『ホーム・アローン』(1990年)で一世を風靡したマコーレー・カルキンや、『レオン』(1994年)で世界的に注目を集めたナタリー・ポートマン、『シックス・センス』(1999年)などのハーレイ・ジョエル・オスメントもそうだ。ほかにもダコタ・ファニングや彼女の妹エル・ファニング、ミリー・ボビー・ブラウンやジェイコブ・トレンブレイなど、挙げればきりがない。そんななか、今もっとも注目を集めているのが、現在公開中の『マリグナント 狂暴な悪夢』に出演しているマッケナ・グレイスだ。現在15歳の彼女は、ほかの天才子役たちと同じく、大人の俳優顔負けの演技で多くの人を魅了している。今回はそんなマッケナ・グレイスの魅力に迫っていきたい。

難役を見事にこなし、その魅力を見せつける

 2006年生まれ、テキサス州出身のマッケナ・グレイスは、前述したシャーリー・テンプルが大好きで、彼女に影響を受けて演技の道を志したという。そして7歳のときにテレビシリーズ『The Goodwin Games(原題)』でデビュー。その後、2013年から2015年にはソープオペラ『ザ・ヤング・アンド・ザ・レストレス』にレギュラー出演し、徐々に知名度を高めていく。彼女は2021年11月現在の時点で、映画・テレビシリーズ含めて57の作品にクレジットされており、2022年以降も3作品に出演予定だ。デビューから8年でこの出演数というのは、驚異的と言うほかない。

『gifted/ギフテッド』(c)2017 Twentieth Century Fox

 そんなグレイスは、2017年のマーク・ウェブ監督作『gifted/ギフテッド』に出演したことで、天才子役と呼ばれるようになった。『(500)日のサマー』(2009年)など独自の世界観で知られるウェブが、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ2作の大作を経て、インディペンデント系に戻ってきた作品だ。本作で彼女が演じたのは、数学の天才児メアリー。叔父のフランク(クリス・エヴァンス)とともに暮らしている彼女をめぐって、彼と彼女の祖母イブリン(リンゼイ・ダンカン)が対立する。メアリーの数学の才能を伸ばすため“ギフテッド教育”と呼ばれる英才教育を受けさせたいイブリンと、普通の子どもらしい生活を送らせたいフランク。どちらがメアリーにとって幸せなのか。そんな争いが、本人の知らないところで展開されていく。

『gifted/ギフテッド』(c)2017 Twentieth Century Fox

 “数学の天才児”という難役に挑んだグレイスは、まさに天才的な演技で観客を魅了した。彼女は目の覚めるような美少女だが、『gifted』のメアリーが一際かわいらしく見えるのは、しかめっ面をしているときだ。その表情は、彼女がほとんどの面で普通の子どもと変わらないことを感じさせる。また、フランクの体によじ登ったり、彼の膝の上で寝そべったり、完全に脱力した状態でフランクに抱え上げられたりと、その子どもらしい動きも見ていて楽しい。そしてフランクとの別れに大粒の涙を流すシーンも、その真に迫った演技で観客の心を強く揺さぶる。一方で、難解な数学の問題をすらすらと解いていく姿にも、まったく不自然さがない。大人に対しても物怖じすることなく、自分の考えをぶつける彼女は、天才と言われるにふさわしい堂々とした態度を見せる。グレイスの演技によって、7歳の幼い子どもであるメアリーと天才的な頭脳を持つメアリーがシームレスに繋がって、キャラクターに真実味を与えているのだ。監督のマーク・ウェブによれば、彼女は「仕事だとわかってお芝居をしている」数少ない子役の1人なのだという。そのプロ意識と自信が、彼女が天才子役と呼ばれる所以なのだろう。

『gifted/ギフテッド』(c)2017 Twentieth Century Fox

 同年マッケナ・グレイスは、マーゴット・ロビーが実在のフィギュアスケーターを演じた『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』にも出演している。彼女が演じたのは、主人公であるトーニャ・ハーディングの幼少期。出演時間自体は短いが、冒頭の数分でトーニャがどのように育てられたのかがわかる重要なシーンになっている。厳しい母親に複雑な感情を抱きながら、スケートで頭角を現していくトーニャ。家が貧しい彼女は周囲の裕福な家庭のスケーターたちからバカにされるが、それを物ともしない不遜な態度と確かな実力で、周囲を黙らせていく。それでも母からは体罰を受け、気を許せる相手だった父親も家を出ていってしまう。父に「置いていかないで」と泣き叫ぶ彼女の姿には、胸を引き裂かれる思いになる。この少女は今後、恐ろしい母親とふたりきりでどうやって生きていくのだろうか、と。そんな風に、グレイスの演技はトーニャというキャラクターの複雑さを的確に表現した。母への恐怖と彼女に認められたいという切実な思い、周囲にバカにされないために攻撃的になっていく姿。のちの天才スケーター、トーニャ・ハーディングを形作る要素が、グレイスが彼女を演じる数分に込められている。

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