「続編映画」特有の問題を離れ業で解決 『ドント・ブリーズ2』で描かれた新たなテーマとは

『ドント・ブリーズ』全作に共通する真の脅威

 驚愕することになるのは、侵入者たちがフェニックスをさらおうとする目的が明らかになる瞬間である。それは、かつてのノーマンの凶行の上をいく異常さであり、法や倫理を大きく逸脱したものだ。つまり、脚本のなかでノーマン以上に常軌を逸した者たちを描き、そんな悪魔的な行動から少女を守るという役回りをさせることによって、ノーマンのことを、限定的な範囲のなかにおける“正しい存在”として応援できる仕組みになっているのだ。

 大きな評価を得た作品の続編では、同じような内容を描くことが望まれる。しかし、同じことを繰り返すだけではつまらない。それは、一作目に存在した挑戦心をも裏切ることにもなるからである。本作は、そんな「続編映画」特有の問題を、ノーマンの凶悪さを再び表現しつつ、前作とは全く違った構図を描くことで、内容を刷新するという離れ業に成功しているのだ。

『ドント・ブリーズ2』(c)2021 DB2 Productions, LLC. All Rights Reserved.

 そして、前作で描かれたノーマンの凶行にも向き合い、その問題を追及しているところも重要な点だ。ノーマンの問題の行為をあらためて考えてみると、その源泉にある目的とは、自分の血を分けた子孫を遺し、家族とともに再び暮らしていきたいというものだった。

 だが本作で描かれるのは、逆に血のつながりが基となって引き起こされる、身勝手な親による凶行と悲劇だ。自分の子どもとともに生活し、様々な経験を共有しながら日々を送っていくという、旧来からの“幸せのイメージ”が社会に根強く存在しているのと同時に、子どもを虐待したり自分の思うように子どもの人生をコントロールしようとする家族も、現実に存在する。その意味で、“血のつながりがある”というだけで親の資格が持てるというわけではないし、それが愛情の証拠になるわけでもないのだ。

 かつてノーマンもまた、“自分の血を分けた子ども”という存在にこだわり、それを手に入れるため身勝手に他人の体を利用するという行動に出た。本作では、そんな過去も含めて、シリーズ全体に共通する、真の脅威とは何だったのかが明らかとなっている。それは、他者を思い通りに利用し、人権を奪おうとする考え方そのもののことである。

『ドント・ブリーズ2』(c)2021 DB2 Productions, LLC. All Rights Reserved.

 ノーマンは戦争を経験し、国家のために人を殺すという行為を強制されてきた。視覚を奪われるだけでなく、彼の人格もまた、そこで破壊されていたのだ。つまりノーマン自身も、ある意味で被害者であり、同様の過ちを犯すことで加害者となっていたということなのだ。本作では、そんな身勝手な行為を“怪物”となっていたノーマン自身が阻止しようと奮闘する。ここには、現実に起こっている加害の連鎖について考えさせられる、重要なテーマがあるといえるだろう。

 まさか、あの『ドント・ブリーズ』が、本作でこのような領域のことを描くまでに至る、学びのあるシリーズとして変貌しようとは、考えもしなかったことだ。人間は変わることもできるし、血のつながりがなくとも、お互いを助け合うことができる。

 本シリーズの物語が暗示するのは、かつての“幸せ”が破壊された社会と、その犠牲になった現代の人々の苦しみである。そして同時に、古い考えや身勝手さを捨てて助け合うことで、人間にはまだ幸せになる希望があるかもしれないという、前向きなメッセージもまた、そこに表現されることになったのだ。

■リリース情報
『ドント・ブリーズ2』

デジタル配信中
ブルーレイ&DVD発売、レンタル中
ブルーレイ&DVDセット:5,280円(税込)
監督:ロド・サヤゲス
脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤゲス
製作:フェデ・アルバレス、サム・ライミ、ロブ・タパート
出演:スティーヴン・ラング、ブレンダン・セクストン三世、マデリン・グレース
発売元・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)2021 DB2 Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『ドント・ブリーズ2』オフィシャルサイト:https://bd-dvd.sonypictures.jp/donburi-movie/

『ドント・ブリーズ』

デジタル配信中
Blu-ray 1,980円(税込)/DVD 1,408円(税込)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(c)2016 Blind Man Productions, LLC. All Rights Reserved.

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