『二月の勝者』で溢れ出る柳楽優弥の魅力 多彩な役柄を演じる力量に迫る

 映画『星になった少年』(2005年)で初めて彼を見たときの衝撃が忘れられない。当時15歳だった柳楽優弥の凛とした姿、忘れられない目の力。彼の映画デビュー作となった『誰も知らない』(2004年)の監督を務めた是枝裕和は、オーディションで柳楽優弥を見た瞬間に「目に力が宿っている」と感じ抜擢を決めたという。

 一時期、役者の仕事から離れていたこともある柳楽優弥。しかし、近年は再び映画やドラマでその姿を見る機会が増えた。2021年現在は土曜ドラマ『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』(日本テレビ系)にて主演も務めている。そんな彼の魅力を、作品別で見せてくれる“顔”ごとに紹介したい。

口の悪い冷血塾講師・黒木蔵人を演じる『二月の勝者』

 先述した『誰も知らない』や『星になった少年』など、少し影のある役柄を演じることが多い柳楽優弥。しかし、土曜ドラマ『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』で演じるのは、人の心を感じられない冷酷無比な塾講師・黒木蔵人である。合格実績日本一を誇る名門塾・ルトワックの名物講師として名を馳せる黒木が、とつぜん桜花ゼミナールの校長へ就任することから始まる『二月の勝者』。中学受験に奔走する小学生の子どもたちとその両親、そして塾講師のリアルを描いた物語において、柳楽優弥演じる黒木校長は第1話から「ここにいる全員を志望校へ合格させます」と太鼓判を押す。

 第1話の冒頭から求心力のある展開。これを目の当たりにした時点で、視聴者は「このドラマに柳楽優弥が起用された理由」を悟るはずだ。これほど説得力を感じられる役者はそうそういないだろう。この先生なら本当に全員合格を達成するかも、と思わせる、すぐには言語化できない魅力がある。

 『二月の勝者』で、特に力説したいのは第2話と第3話について。筆者は2話のラストシーンを見て以来、最後までこのドラマと添い遂げることを誓った。ぴっちり固めた前髪をグシャグシャ崩し、スーツの前ボタンを開けてネクタイを緩める黒木校長。夜の街を颯爽と歩き、華やかなドレスを着た女性に両脇から腕を取られ、塾講師には相応しくない店へと姿を消す。普段きっちりしている人が不意に髪や服装を崩す様子がたまらなく好きな方は、ぜひこのシーンだけでも見てほしい。改めて、柳楽優弥しか醸せない色気に気づくはずだ。

『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』(c)日本テレビ

 その色気がさらに濃さを増して爆発するのが第3話である。第3話は、桜花ゼミナールに通う優秀な生徒のひとり、前田花恋(田中絆菜)が名門塾・ルトワックへ転塾を検討する回。より自分の力を試せる場所を求めての行動だが、レベルが高すぎる環境に花恋は挫折しかけることになる。それを救ったのが黒木だ。ルトワックの講師に自分の名前さえ満足に覚えられていない事実に打ちのめされ、トボトボと道を歩く花恋。彼女の前に、ふと姿を表す黒木。

『二月の勝者ー絶対合格の教室ー』(c)日本テレビ

 前髪ボサボサ&着崩したスーツ姿。普段とは違う姿に、すぐには黒木だと気づけない花恋。自分であることを示そうとして、前髪をかきあげ顔を見せる黒木の仕草がたまらなく良い。その後「甘酒は飲む点滴と呼ばれるほど疲労回復効果がある」として、ともに甘酒を飲むふたりのシーンに移る。このまま桜花ゼミナールで頑張るか、それともルトワックへ転塾するか。悩む花恋に対し、黒木は直接励ますことはしない。しかし「花恋にはトップが似合ってる」「花恋の席、まだ空けて待ってるよ」と伝え、彼女が自ら戻ってくるよう仕向ける。このセリフもたまらなく素晴らしいが、黒木の、膝に手をついて花恋の顔を覗き込むような姿勢も良い。SNS上には「ホストにしか見えない」といった同士の叫びが溢れかえっていた。いったい花恋の視点からはどのような景色が広がっていたのか。彼女が将来、黒木のようなホストの沼にハマらないことを祈りたい。

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