『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が涙を誘う理由 ポイントは“祈りの純度の高さ”

 10月29日に京都アニメーションが制作したテレビアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の特別編集版が『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて放送される。すでにTwitterなどSNS上では、ファンの驚きと喜びの声が多く、盛り上がりを見せている。「泣けるアニメ」という触れ込みの是非はあるものの、多くの人の涙腺を刺激する本作の魅力について迫っていきたい。

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン特別編集版』(c)暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会

 『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は暁佳奈の同名ライトノベルを原作とし、2018年に放送されたテレビアニメだ。11月5日に放送される『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 ー永遠と自動手記人形ー』などの劇場版作品が2作制作されるなど、大きな反響を呼んだ。

 本作はテレビ放送開始前から大変な話題となった。アニメファンを驚かせた理由がテレビアニメ放送前に発表されたCMだった。

 テレビシリーズの監督を務めた石立太一の絵コンテ・演出の元、作画監督の高瀬亜貴子や岩﨑菜美、多田文雄などのアニメーターが手がけた30秒ほどの映像からは京都アニメーションがほこるキャラクターや小物の作画の緻密さ、撮影技術を駆使した映像の美しさなどが合わさり、それだけで圧巻の作品となっていた。テレビアニメが放送されると、映画作品と比較されるほどの映像美によって、さらにその声は大きくなる。

「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」 Violet Evergarden CM

 その映像美が発揮された象徴的なシーンの1つが、第7話の湖畔でヴァイオレットが空を駆けるシーンだろう。ここではレンズフレアやゴーストと呼ばれるレンズの効果が発揮される演出がほどこされており、光をより強く印象づける絵となっている。また一部シーンでは光が天使の輪のように輪っか状になっており、第7話で亡くなった娘への慰霊の意味合いを感じさせる。アニメの撮影部門を担当した方に話を伺うと、このような表現は狙って苦労しなければ出せないものと語っており、映像の美しさのみならず、物語に様々な意味合いを込めるための仕事の1つといえるだろう。

 物語はかつて大きな戦争があった国で少年兵として戦場に立っていた主人公ヴァイオレットが、戦争が終わった後に手紙の代筆人となり成長していく姿を描く。また、最愛のギルベルト少佐が別れの間際に残した「愛している」の言葉の意味を探していくという、普遍性のある物語だ。もともと感情に乏しかったヴァイオレットが、手紙の代筆=想いを手紙に込めて届ける仕事に着くことで、感情豊かになっていく姿にも注目してほしい。

 本作はさらに2度観るとヴァイオレットに対する印象が変わる物語でもある。ヴァイオレットが働くことになるC.H郵便社の社長、クラウディア・ホッジンズは第1話において「君は自分がしてきたことで、どんどん身体に火がついて燃え上っていることを、まだ知らない」と語る。

 この言葉の意味はまだヴァイオレットがどのような人生を歩んできたのかわからない、初見の視聴者には、伝わりづらいかもしれない。それこそヴァイオレットのように「燃えていません」と返すかもしれない。しかし、この物語を見終わった後に再び振り返った時に、この時点のヴァイオレットが、どれほどの業火に焼かれていたのかわかり、ホッジンズの心境とリンクし、第1話で心をかき乱される表現となっているのだ。

 決して感情の表現が豊かではないヴァイオレットも、その心の奥底では表現できていないだけで感性が豊かである。こういった一種の矛盾するようなキャラクターたちの心情表現が絵からも伝わってくることからも、技術力の高さがよく分かる。

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