『婚姻届に判を捺しただけですが』が描く“夫婦の在り方” 明葉と柊の結婚生活の行方は?
「“結婚”を不毛な恋の隠れ蓑にしたい」ーー何やらのっぴきならぬ事情による“偽装結婚生活”が幕開けした『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系、以下『ハンオシ』)。
恋愛や結婚に必要な3要素として“フィーリング・タイミング・ハプニング”があげられたりするが、独身を謳歌している27歳デザイナー・大加戸明葉(清野菜名)と、仕事はできるが堅物で性格に難ありな30歳広告代理店営業マン・百瀬柊(坂口健太郎)にとって、フィーリング以外の条件があまりに揃いすぎた。利害関係がピタリと一致したのだ。
明葉は海外で過ごす自由奔放な両親の代わりに自分を育ててくれた祖母の小料理屋を守るための資金500万円を用意するために、柊は「好きな人がいるから」その人に自分の恋心がバレてしまわぬように、世間の目を欺くための“カモフラージュ婚”として。とにかく両者ともに“自分のために”というよりは、守るべき大事な存在があってそのためにやむなく“結婚”という手段をとるより他になかったようだ。
ただ、彼ら2人の事情が特殊すぎるだけで、実際にはどんな結婚だって住む場所、理想のライフスタイル、ライフプランなどなど条件面での一致、つまり利害関係の一致はなくてはならない要素だろう。
最初は、誰彼構わずにとにかく“結婚さえできればいい”と手当たり次第声を掛けていたかに思えた柊と明葉の偽装結婚生活にはもっと暗雲が立ち込めるかと思いきや、予想以上に彼らの結婚生活は建設的で健全にも思える。
「互いの生活に立ち入ったり干渉しない」「別々の生活をするシェアハウス」なんて、各々に独立したイマドキの男女の中にはむしろ彼らの共同生活のあり方を羨ましく思う人も少なくないのではないだろうか。
貸し借りも明確で、ルールも明文化されており、このルールを作成したのが柊一人ではあるものの、内容は限りなくフェアである。こんなにも割り切った関係で“他人同士”であることが自明の関係だからこそ、一緒に暮らし始めてすぐにルールを設け、確認し合う。これも通常であれば、ついつい一緒に暮らし始めた当初こそ舞い上がってしまって、なあなあにしてしまいがちで、あとで後悔するポイントだったりもする。
共有部分の掃除を当番制にすることを提案した柊に、自分が多少多めに担当すると名乗り出た明葉に彼がピシャリと言った言葉は、言い換えれば“親しき中にも礼儀あり”である。「多少という気遣いが相手への干渉に繋がる可能性がある」ーーこれは、“結婚しているんだから”“夫婦なんだから”“これくらいやって(やってもらって)当たり前”と暗黙の了解で家庭内で引き受け合う役割分担こそが悲惨な結果を招きかねない、そんなリスクヘッジまでできているように思える。確かに、こういう目に見えない気遣いの積み重ねは最初こそよくてもどんどん互いにとって“なぜ自分だけ?”という不平不満や“見返りを求めてしまう”気持ちにどうしたって繋がりかねないだろう。
明葉が勤めるデザイン会社内で唯一の既婚者である社長の森田(田辺誠一)も「夫婦っていったって他人なんだから、他人と一緒に暮らすのはストレスだらけだろ。でも、好きだから結婚した。愛があればどんなに喧嘩しても夫婦は夫婦だ」と話していたが、その“好き”も“愛”もない、立ち返る場所のない彼らはどのように“夫婦生活”を築き上げていくのか。ルールも完璧ではない。ただ、早速このルールや柊の一方的な物言いに対して納得できないポイントを、お金を借りており柊のおかげで立派な家に居候させてもらっている立場ながら強気で主張する明葉の姿も頼もしい。柊も自身の早とちりで頭ごなしに彼女を責めてしまったことに気づくと、きちんと寄り添う姿勢を見せ、折衷案を提示した。
「一つ妥協していただけませんか? これから毎朝、大加戸さんが僕を起こして下さい」これこそが、本来夫婦やパートナーが共に暮らしていく上で、必要不可欠な姿勢であるだろう。一緒に暮らしていく以上、関わり合っていかねばならないと、柊が自身を見つめ直し覚悟を決め、ポケットから取り出したのは誓いの指輪ではなく、今まさに明葉のストレス源になっている彼の目覚まし時計の電池だった。形式上の“幸せ”よりも、今抱えているマイナスを互いの妥協の上でできる限り最小限にすることこそ、目下、双方の幸せのためにできることである。