『おかえりモネ』菅波から百音への百点満点の「がんばれ」 鈴木京香の圧巻の演技も

『おかえりモネ』が描いてきた“気象と心”

 “胸に秘めた想い”、その想いとは“痛み”に近いものなのかもしれない。『おかえりモネ』(NHK総合)第104話は、家族会議後の百音(清原果耶)と菅波(坂口健太郎)の電話から始まる。

 家業の整理をめぐり、離れていた人間に口出しされたくないのでしょうと言う菅波に対して、「先生、言葉がきついです」と嗜める百音。しかし、すぐさま「でも、あなたが一番思っていることでしょう」と返されて口をつぐむ。この2人の正直な言葉のやりとりに、信頼と愛を感じる。

 離れた人間だから言えることもある。ずっと一緒にいる身近な人間だからこそ言いづらいことなら、なおさら。百音は結局、自分がそうであるように他者が抱え続ける痛みの存在に気づくと見逃せないのだ。「痛みを抱えたまま平気な顔で居続けるのも辛いでしょう」という言葉は過去の自分にも重なるが、それを言った彼女の思い浮かべている人はきっと未知(蒔田彩珠)や亮(永瀬廉)、周りにいる人たちのはず。

「まずはここが痛いって言わせてあげるのがいいんじゃないですか? 口に出させることで、本人の心を軽くする。解決することはないかもしれないけど、その糸口が見つかることもある」

 かつてコインランドリーで百音に元ホルン奏者の宮田(石井正則)との過去という“痛み”を打ち明け、百音に“手当て”をしてもらった菅波。この彼の言葉は、彼本人がその時その身を持って体験したことなのだ。ああそうだ、このドラマはずっと最初から“心に痛みを抱えた者と、その痛みいとの向き合い方”について描いてきていたなと、ここにきてふと気づく。

 初期は登米で出会ってきた人……トムさんこと田中(塚本晋也)や、百音自身。そして東京に移り、鮫島(菅波小春)や莉子(今田美桜)、そして菅波……自分自身の痛みと向き合いながら、誰かの心の痛みにも触れてきた百音。最終章では、ついに最も身近な存在の心の痛みに向き合う時がきたのだ。登米にいた時の百音では、自分の抱える痛みのあまりに無理だっただろう。しかし、これまでの人々との出会いと彼らと共に成長し、己の心の強さを高めた今の百音だからこそ対峙できることだ。そこまでこれたのも、菅波という支えが彼女の中で大きい。

 「先生の言葉はきついけど、私にはないと困る」。そういった百音に、菅波は「これも重荷になる言葉かもしれないけど」という前置きをおいて、「がんばれ」と彼女を励ました。実は、第100話で高橋(山口紗弥加)に最後「頑張ってね」と手を握られたとき、百音がすごく微妙な顔をしていたのが心に引っかかっていた。実生活でも、自分がすでに頑張っている時に「頑張れ」と言われると、余計苦しくなったりプレッシャーに感じたりすることがある。エールのように思えて、簡単に呪いの言葉にもなってしまうこの四文字だが、菅波のその前置きは彼女を笑顔にする百点満点の「がんばれ」だったように思える。

 菅波のアドバイスを受けた翌朝、彼女の予報通りに現れた美しい毛嵐と朝日に迎えられる気仙沼。百音は気象情報だけでなく、“気象と心”にまつわる話をはじめる。これこそ、『おかえりモネ』が描いてきた作品のテーマそのものではないだろうか。低気圧が近づいてきていることから、それに影響を受けて体が重くなったり頭が痛くなったりする気象病の話をする百音。それは、みんなが忘れていた痛みをぶりかえすきっかけにもなり得るし、その痛みとは身体的なものだけでなく、心の痛みでもある。

「みなさん、ちょっと痛いなって、しんどいなって思ったら、心に溜めていること、言えないこと、少しだけでも外に出してみてください。ここにきて、話してくれてもいいです。声を、聞かせてください」

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