『マスカレード・ナイト』が活かした続編映画の利点 木村拓哉のスター性が引き立つ演出も

『マスカレード・ナイト』で活きた続編の利点

 そのように余分なものをそぎ落とせるという続編映画の利点を存分に活かした進化の過程で、特に目を引いた点は、前作以上に“ホテル”という舞台の異空間ぶりが発揮されていたことだ。ホテルを舞台にした映画といえば、古典の名作であるエドマンド・グールディングの『グランド・ホテル』を皮切りに、日常生活とは切り離された特別な場所であり、そこに集まる登場人物たちにはそれぞれのドラマが存在しているという暗黙の上で成り立つ群像劇ないしは群像ミステリーが典型で、この『マスカレード』シリーズもそれに忠実に従う。ちなみにフジテレビ映画としても過去に、本作と同じく大晦日にフォーカスを当てた三谷幸喜の『THE 有頂天ホテル』があったのを忘れてはならない。群像コメディだったこちらもオールスター映画であり、ホテルという舞台はエンターテインメント性を高める上でも重要な装置であるわけだ。

 “特別”さを象徴させるかのように、本作では前作以上に外に出ない。前作でもたしかにほぼホテル内で物語が進行したわけだが、開放的な屋上で新田と山岸のやり取りがたびたび登場するなど、開けた外の世界の一部としてホテル・コルテシアは存在していた。対して本作では回想シーンを除けば屋外でのやり取りはホテルの入口前と冬場で使われていない寂れたプールのシーンぐらいであり、客室の窓から見える看板や向かいのビルもホテルの手が届かない場所であるように見えてそうではない。また冒頭に登場する中村アンのような外部の登場人物の介入もほとんどなく、内と外をつなぐ役割を果たすのは前作同様に小日向文世演じる能勢のみに留まるなど、隔絶された異空間ぶりが際立っていく。

 そこに原作からの大きな脚色として、1日の出来事にまとめられた時間的な制約も与えられることで、閉塞感と焦燥感に乗せてスリルが高められる。さらに鈴木雅之演出ではおなじみの正面からのバストショットを軸として、ロビーでは画面の前後左右に不自然ながらも映画的に往来する人物の動きが見られ、序盤に新田がホテルにやってきたシーンで、奥の扉の向こうに消えたタイミングで山岸がフレームインするなどの定型的な構図。廊下の奥行きや、エスカレーターでの上下も効果的に使われ不穏さを駆り立てると、クライマックスのパーティー会場で人物の動作の規則性が破られて何かが起こることを予感させる。

 ある意味ではスリリングな作品に仕上げるための教科書通りとも取れる演出は、ストーリーはもちろんのこと木村拓哉というスターを魅せる上での引き立て役としてしっかりと働く。さながら映画に意外性や深いテーマなどではなく、安定した面白さと見応えを求めるテレビ屋の、娯楽の担い手としての巧妙な作戦の数々が込められているのであろう。

■公開情報
『マスカレード・ナイト』
全国東宝系にて公開中
出演:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、梶原善、泉澤祐希、東根作寿英、石川恋、中村アン、田中みな実、石黒賢、沢村一樹、勝村政信、木村佳乃、凰稀かなめ、麻生久美子、高岡早紀、博多華丸、鶴見辰吾、篠井英介、石橋凌、渡部篤郎
原作:東野圭吾『マスカレード・ナイト』(集英社文庫刊)
脚本:岡田道尚
監督:鈴木雅之
音楽:佐藤直紀
配給:東宝
(c)2021東野圭吾/集英社・映画「マスカレード・ナイト」製作委員会
公式サイト:https://masquerade-night.jp

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