『密告はうたう』重苦しいムードに光る松岡昌宏の意志 信じないことで辿り着く真実とは

残忍な真犯人と警察内の権力闘争

 皆口は目白駅殺人事件の真相解明に人知れず執念を燃やしていた。情報屋の佐々木は、皆口の頼みで宇田をマークするうち、宇田がとある人物と接触しているのを発見する。その人物とは……目白駅殺人事件の真犯人、滝本(松浦祐也)だった! だが、その直後、佐々木は滝本に殺害されてしまう。これが3つ目の事件である。佐々木の死体を目の当たりにした佐良は犯人逮捕に協力しようとするが、能馬に厳しく制される。

 謹厳実直な刑事である宇田だが、滝本に何らかの弱みを握られて金を脅し取られていた。残忍な性格の滝本は、自分を追う皆口に標的を絞る。一方、高井戸南署の梶原署長は、吉祥寺署の堤署長(鶴見辰吾)と熾烈な出世争いを繰り広げていた。能馬の取り調べによって、梶原がかつて宇田の致命的な初動捜査ミスを握り潰していたことが発覚する。すべては自分の出世のためだ。かつて人事一課の監察官を務めた堤は、佐良にこう語る。

 「間抜けが上に立つ組織ほど悲惨なものはない。警察に与えられた力を正しく使うためにも、常に優れた者が上に立つべきだ。私もそうありたいと思っている」

 宇田に深夜の埠頭へと呼び出された皆口は、変装した宇田の一撃を浴び、そのまま冬の海へ放り込まれる。絶体絶命の危機を救ったのは、行確中の佐良だった。しかし、ようやく陸に上がった佐良を、宇田の一撃が襲う――! ここまでが第4話のあらすじである。

松岡昌宏の強い意志の力

 主人公の佐良を演じる松岡昌宏の、これまでのイメージをかなぐり捨てた役作りが作品のムードを作り上げている。後輩を失った上、自分の仕事は犯人逮捕ではなく、かつての同僚の疑惑を追うこと――その葛藤、苦しみ、後悔などを一身に背負っている男。トレードマークの前髪は垂れ落ち、背中には疲労感も滲んでいるし、声にも張りがない。しかし、それでも眼の光を失うことなく、職務を遂行し続け、じわじわと真相へとにじり寄っていく。そこには大きな力に負けることのない、彼の強い意志がある。重苦しいムードのドラマだが、観ていても嫌な気分になったりしないのは、謎解きのスリルもさることながら、画面の中心に松岡昌宏がいるからだろう。その頼もしさったらない。

 野心溢れる刑事だった時代から、見た目は大人しく変わっても、内面では真相追求のために静かに闘志を燃やし続ける皆口を演じる泉里香、同じように真相解明に一直線に突っ走るあまり、命を落としてしまった斎藤を演じる戸塚祥太も、作品の持っている熱を画面のこちらに伝えてくれる役者たちだ。

 実力派の中堅、ベテランが揃った脇役陣中で、強いインパクトを与えるのが、佐良とバディとなる元公安のエースで凄腕の人事一課係長、須賀を演じる池田鉄洋だ。いついかなるときでもクール表情を変えないが、与えられたミッションは執念深くやり抜く男。それでいて、何気なく佐良のことを気にかけているのが憎めない。“長袖の須賀”と呼ばれるようになったエピソードも壮絶だった。

 もちろん、人事一課の監察官、能馬を演じる仲村トオルの冷酷な演技が、作品全体を締まったものにしているのは言うまでもない。こちらの心の中を覗き込んでくるような冷たい視線と態度が、人事一課のみならず作品全体を支配しているようだ。

 いよいよ第5話からは、これまで張り巡らされてきた伏線が次々と回収され、謎が解き明かさていく。佐良と皆口はどのように危機を脱するのか? 2つの未解決事件はどのように決着するのか? 警察内の権力闘争の行き着く先は? そもそも誰が何のために密告文を出したのか?

 作中では何度も「信じない」という言葉が登場する。冷徹に対象を観察し、証拠を積み上げ、不正を告発する人事一課は、「信じる」という言葉からもっとも遠い職業なのかもしれない。人を「信じない」ことでたどりつく真実がある。あと2話、心して待ちたい。

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■放送情報
『連続ドラマW 密告はうたう 警視庁監察ファイル』(全6話)
WOWOWプライム、WOWOW 4K、WOWOWオンデマンドにて、毎週日曜夜10時~最新話放送・配信中。
WOWOWオンデマンドでは放送回をアーカイブ配信中。
出演:松岡昌宏、泉里香、池田鉄洋、三浦誠己、戸塚祥太(A.B.C-Z)、秋元才加、眞島秀和、ブラザートム、松浦祐也、アキラ100%、千葉哲也、甲本雅裕、木下ほうか、木村祐一、鶴見辰吾、仲村トオル
原作:伊兼源太郎『密告はうたう 警視庁監察ファイル』(実業之日本社文庫刊)
監督:内片輝
脚本:鈴木謙一
音楽:大間々昂
企画・プロデュース:武田吉孝、下田淳行
プロデューサー:井口正俊、星野秀樹
制作プロダクション:ツインズジャパン
製作著作:WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/mikkoku/

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