『ハコヅメ』が傑作“お仕事ドラマ”になった理由 不真面目さと真面目さの絶妙なバランス

『ハコヅメ』が傑作お仕事ドラマになった理由

願わくば、そう
悲劇よりも喜劇よりも 見ていたいのは
奇跡のような当たり前を照らす この日常

 ドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)の主題歌、miletの「Ordinary days」が流れ出す瞬間が好きだ。自殺を仄めかす通報をする「常連さん」の本当の自殺未遂、連続窃盗事件の犯人と彼にもらったイヤリングを懸命に探していた彼女の切ない顛末、認知症の夫を抱えた妻が介護疲れの果てに決行しようとした悲しい旅行。戸田恵梨香演じる藤聖子と、永野芽郁演じる川合麻依が交番勤務を通して向き合うのは、普通に生きようとしていたけれどどうにもならなかった人々の切ない事件が多い。事件のその先にも、彼らの日常は続いていて、藤や川合たちは、彼らのその先の未来へのフォローも忘れることがない。そんなヒロインたちを包み込むように流れ出す前述のフレーズは、まるで「プリキュアでもヒーローでもない」彼女たちの「祈り」のようだ。

 ドラマ『ハコヅメ』にハマる人が多い一番の理由は、登場人物たちの本音ダダ漏れの「心の声」の応酬含め、より私たちの「日常」に近いドラマだからではないだろうか。原作は、10年間にわたる県警勤務から漫画家への転身という異色の経歴の持ち主である泰三子による『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(講談社「モーニング」にて連載中)。

 そのため、彼らが時折例え話の中で言及するような『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)や『西部警察』(テレビ朝日系)、『踊る大捜査線』(フジテレビ系)のような従来の「華やかな」刑事ドラマにはない、仮眠室のシングルベッドに3人で寝るエピソードや、通常点検、再現人形のエピソードなど、視聴者の多くが知らないリアルな警察・交番エピソードを楽しめる。また、脚本が、現在『サ道2021』(テレビ東京)も手掛けている根本ノンジによるものというのも大きいだろう。実に鮮やかな構成力と軽快なテンポで、彼らの日常を緩急自在に描いている。

 さらに、最も優れているのは、その人物描写であり、それを見事に体現する、戸田恵梨香・永野芽郁の「朝ドラヒロインコンビ」をはじめとする俳優たちの力量と言える。

 完璧な「ザ・憧れの先輩」藤に、一挙手一投足全てが可愛い無邪気な新人・川合。よくお菓子をくれる、ゆるくて優しい上司・伊賀崎(ムロツヨシ)は、いざという時には思わぬ底力を見せる。藤たちと張り合っているようでうまくフォローし合っている源(三浦翔平)と山田(山田裕貴)のキャラクターもいい。「チンピラ大奥」こと臼田あさ美、大西礼芳(+徳永えり)という完璧な布陣が繰り出す藤の同期たちの大人女子会のカッコよさ、面白さ、美しさも秀逸だ。

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