『ハコヅメ』が傑作“お仕事ドラマ”になった理由 不真面目さと真面目さの絶妙なバランス

『ハコヅメ』が傑作お仕事ドラマになった理由

 それぞれが一見ダメダメな人に見せてどこか突出した能力がある。愚痴と冗談ばかり言っているように見せて、ちゃんと正義を貫き、守らなければならないことを守っている。そして、交番、刑事課、女子会、全てのシチュエーションにおいて、彼らのワイワイガヤガヤとしたボケとツッコミの応酬の根底に、それぞれの「特殊能力」(川合の似顔絵の才能、源の取り調べ能力等)を認め、活かそうとする信頼関係がしっかりと存在するからこそ、組織としての良さが伺える。

 この不真面目さと真面目さの絶妙なバランスこそが、1日の大半の時間を費やし、もはや職場の方が家に近いのではないかと錯覚するほどハードに働いている人々にとっての「職場」のリアルだ。彼らのやり取りを見ていると、つい職場の同僚たちを重ねてしまうという人は多いのではないか。「警察官あるある」の前に、「職場あるある」として頷ける部分が多いからこそ、このドラマの「お仕事ドラマ」としての質は高いのである。それは、ヒロインだけでなく同僚一人一人の愛すべきキャラクターを描いていた『重版出来!』(TBS系)や『これは経費で落ちません!』(NHK総合)、お仕事ドラマではないが、OLの日常をつぶさに描いた傑作『架空OL日記』(読売テレビ・日本テレビ系)に通じるところがある。

 さて、終盤戦となった『ハコヅメ』。ここに来て盤石だったはずの「日常」が崩れ始めている。『ハコヅメ』の日常、すなわちそれは、「拝啓お父ちゃん」から始まるモノローグの語り手でもある川合の日常だ。もっと言えば、「慣れちゃった私たちのほうがおかしくて、川合の反応が正常」と藤や宮原(駿河太郎)が言うように、「まだ警察官の面構えになりきっていない」あらゆる事件の当事者に対し様々な感情を抱く川合こそが、視聴者に一番近いところにいる、藤や伊賀崎が守るべき、守りたいと願う「日常」そのものでもある。

 安定感抜群の優しい上司2人に見守られながら、すくすく育ってきたはずの彼女の根底が、「川合は、藤にとっての、桜(徳永えり)の事件の犯人を誘き出すための囮じゃないか」という山田の疑念を聞いたことによって揺らぎ始めた。アイコンタクトだけで全てを察し合えるようになった藤・川合の蜜月を、さらに凝縮された、濃密な関係性を感じさせる藤・桜の短い回想のシークェンスが、過去を塗り替えることを拒むかのように妨げるように。

 それでも2人は大丈夫だろう。彼女たち「最強ペア」には、彼女たちを支え、見守る、面白くて最強の仲間たちがいるのだから。この、笑っていたらあっという間に過ぎるひと時をまだまだ見ていたいと願う今日この頃である。

■放送情報
『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00〜23:00放送
出演:戸田恵梨香、永野芽郁、三浦翔平、山田裕貴、西野七瀬、平山祐介、千原せいじ、ムロツヨシ
原作:泰三子『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』(講談社『モーニング』連載中)
脚本:根本ノンジ
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:藤森真実、田上リサ(AX-ON)
協力プロデューサー:大平太
演出:菅原伸太郎、南雲聖一、伊藤彰記
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/hakozume/
公式Twitter:@hakozume_ntv
公式Instagram:@hakozume_ntv

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