『わかっていても』最終回が描いた現実的な選択 恋愛ドラマとしていびつだった理由を考察
というのも、現実では全ての恋愛がドラマみたいに綺麗に説明できるわけじゃないからだ。壊れっぱなしで直すことが面倒くさくて距離を取ることもあるし、本心を伝えないまま別れることなんてざら。相手がどう思っているのかなんて、最初から最後まで分からないことだってある。そう考えると、本作がずっとナビ側の心情をモノローグに近い形で描き、逆にジェオンの心の声を徹底的にわからないようにしていたことに納得がいく。『わかっていても』は全編を通してナビの視点で語られる物語であり、だからこそ対話を通して理解する以外の手段で相手の感情がわかることはないのだ。そのため、ソラのこともナビの持つ印象以上にわかることがない。本来恋をするときと同じような形としてナビという一人称(自分)視点のみで描き、それを視聴者にも共有し一体化させた演出、そこに本作の新鮮さと現実味を感じる。
そしてナビは、解決していないことばかりだけど“どうしようもなく好きだから”ジェオンを選択した。これも、道理に叶うことばかりじゃない意味合いで現実的。最初からほとんど全て彼女が意思決定してきた恋だ。この選択もまた自分の心の声に従ったもので、それがどんな形や結果になっても本人はそれで良いと思えるのではないだろうか。
体の関係もあり、尽くしてくれるしデートもするけど付き合ってはいない。何もなかったかのように、大事な問題や済ませるべき会話を先送りにして作業を一緒に進めていくナビとジェオンのコミュニケーション。それを解決する前に、学校のことや将来のことなど考えることがいっぱいで、正直それどころではない。そういった具合の主人公や周囲のキャラクターの様子も、やはりこれがかなり現実的な作品であることを印象づける。一方で、先輩ことアン・ギョンジュン(チョン・ジェグァン)とミニョン(ハン・ウトゥム)のように同棲を開始するも、プラトニックかつスローに関係を進めていくカップルもいて、本作は多様な恋愛観が飛び交う現代的なドラマだった。
ラストでは、晴れてカップルになったナビとジェオンが手を繋いで歩く。一瞬、カフェで女の子と楽しそうに話すヤン・ドヒョク(チェ・ジョンヒョブ)を見つけたナビは、ジェオンの手を離そうとするが、思い改めて再び強く握る。まるで、自分の選択が間違っていないことを確かめるように。そんな彼女に「猫を飼いたい」と言い出すジェオン。「もう何も飼わないで」と答えると、「蝶も?」と笑いながら言う彼に「うん」と返すナビ。このやり取りも、「もう他の女の子とは関係を持たないで」という意味をはらんでいて、やはり可愛いと思ったらすぐに “何かを飼いたがる”ジェオンの変わらない性格を描いたラストシーンでもあった。しかし、相手が変わらないと“わかっていても”、どれだけ相手に対して不確かな……わからない部分があると“わかっていても”、綺麗事では片付けられない、「ただ好き」というのがどれほど強い感情であるかを二人のラブストーリーは改めて私たちに伝えてくれたように思える。
■配信情報
『わかっていても』
Netflixにて配信中
写真はJTBC公式サイトより