『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は愛と誠実さに溢れた傑作 人間ドラマにも注目

 リン監督の「誠実さ」。それは「車があれば何でもできる!」の精神で暴走していった、『ワイスピ』シリーズにぶっとい釘を刺すようでもあった。ネタバレを避けたいのでボカして書くが、本作のクライマックス、とあるキャラクターが非常に直接的なメッセージを口にする。「自分たちは運がいいだけで、何でもありの無敵の存在ではない。死ぬかもしれないけど、それでも己の行動に責任を持ち、正義を貫かねばならない」……この実直かつ厳しいメッセージを、シリーズ屈指の荒唐無稽なシーンで語ることで、説教くさくなく見せてしまうバランス感覚よ。リン監督の誠実さとエンタメ・マインドが合致した、シリーズ屈指の名シーンだ。そして「何でもありだからと言って、何をやってもいいわけではない」という明確なリン監督の意思表示に、ずっとこのシリーズを愛してきたファンとして、私は泣いてしまった(思えば『MEGA MAX』でも最後が爽快すぎて泣き、『SKY MISSION』の「See You Again」でも泣いた。私は『ワイスピ』で泣いてばかりである)。

 本作は問答無用に面白いアクション超大作であり、『ワイスピ』シリーズを追いかけてきたファンに対する、愛と誠実さに溢れた作品だ。コロナ禍で鬱屈した日々を送る今にふさわしい暑中見舞い的な傑作だと断言する。長年『ワイスピ』を観ていた人はもちろん、初見の人にもオススメしたい。きっとシリーズを知らなくても楽しめるはずだ。なぜそう思うかというと……。劇場で、こんな光景を目撃したからだ。劇場で同席していた十代くらいの少年たちが、こんな話をしていた。

「すごく面白かったね!」
「うん! 思っていたのと全然違ったけど!」
「そうそう、カーレースの映画だと思っていた!」

 この会話が聞けただけでも、私は劇場に行ってよかったと思う。かつて『グラップラー刃牙』が掲げていた惹句ではないが、「予想は裏切り、期待は裏切らない」。それこそが『ワイスピ』である。

■公開情報
『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
全国公開中
出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジョン・シナ、ジョーダナ・ブリュースター、ナタリー・エマニュエル、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン
監督:ジャスティン・リン
脚本:ダン・ケイシー
キャラクター原案:ゲイリー・スコット・トンプソン
製作:ニール・H・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、ジェフ・カーシェンバウム、ジョー・ロス、ジャスティン・リン、クレイトン・タウンゼント、サマンサ・ヴィンセント
配給:東宝東和
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