『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』でまさかの復活! シリーズの立役者ハンの軌跡をたどる

まさかの復活、『ワイスピ』ハンの軌跡

 ハン、事実上2回目の蘇生である。なんの話かといえば、もちろん『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(2020年)だ。スピンオフ(『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』)含めシリーズ通算10作目、原題だとタイトルに「サーガ」=「伝説」とつくようになりました。思えば遠くへきたもんだ。私が高校生の頃にはDVDプレイヤーを盗むアメリカのヤンキーの話だったのに、今や『ワイスピ』といえば世界的な大ヒットシリーズ、当然ここ日本でも大人気だ(まさか「週刊ダッジ・チャージャーを作ろう」が始まるなんて、1作目の時点で誰が予想できただろう?)。そしてハンの復活だけで世界が沸くようになってしまった。今回は最新作の公開を控えた今、シリーズの歴史を振り返りつつ、なぜにハンの復活でこんなに世界中のファンが騒いでいるのか、そもそもハンって誰なんだ、っていうか『ワイスピ』って何なんだ、という話をしていきたい。

『ワイルド・スピード』(c)2001 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ワイルド・スピードX2』(c)2003 Universal Studios. All Rights Reserved.

 すべては約20年前、『ワイルド・スピード』(2001年)から始まった。本作はストリートレースに青春をささげるアウトローたちの友情と青春のカー・アクションとして、世界中でスマッシュヒット。しかし、2作目の『ワイルド・スピードX2』(2003年)は作品の看板だったヴィン・ディーゼルが降板し、3作目の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)に至っては、もう1人の看板だったポール・ウォーカーも離脱。公開当時、シリーズとしては手詰まり感があったように思う。しかし今になって思えば、この『3』が一つの転換点となった。シリーズを通じてのキーパーソンになるハン(サン・カン)が登場したのも『3』である。

『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(c)2006 Universal Pictures. All Rights Reserved.

 『3』は東京に留学してきたアメリカ人青年のショーン(ルーカス・ブラック)が、アウトローの世界で「ドリフト」を叩き込まれて成長していく姿を描く作品だ。日本からも柴田理恵、北川景子、妻夫木聡、千葉真一などが出演しているが、ここで主人公の師匠/兄貴役として登場するのがハンである。『ワイスピ』といえばチャラチャラのド派手な世界観と、ゴリゴリのマッスルが名物だが、ハンはちょっと違う。常にスナック菓子をつまんで、ひょうひょうとした態度で、時にやさしく、時に厳しく、主人公を的確に導いてゆく。そして自分の車を主人公の完全な失態でグチャグチャにされても、「金ならある。お前の人間性が知れたし、車一台くらい安いもんさ」と余裕を崩さないが、ふとした瞬間に「オレは……西部劇みたいなもんだ。東京は俺にとってのメキシコさ(※メキシコはアメリカの犯罪者が逃げる定番の国)」と、重い過去を匂わせる。それまでの『ワイスピ』には見ないタイプの男だった。ただし、兄貴分の宿命として、ハンは悪党たちとのカーチェイスの末、東京のド真ん中でクラッシュ。車は彼を乗せたまま爆破炎上してしまう。そして『3』のラスト。ドリフトキングとして大成したショーンのもとへ、『ワイスピ』の主人公・ドム(ヴィン・ディーゼル)がやってくる。彼は「ハンとはファミリーだった」と語るのだが……。

 ここからの『ワイスピ』シリーズの説明は、ちょっと難しい。時系列がバラバラだからである。『4』で邦題から数字が消えたのは、思うにこの辺の事情もあるだろう。具体的にいうと、『ワイスピ』の時系列は以下のようになっている。なお()内は邦題だ。

 『1』→『2』→『4(MAX)』→『5(MEGA MAX)』→『6(EURO MISSION)』→『3(TOKYO DRIFT)』→『7(SKY MISSION)』→『8(ICE BREAK)』→『外伝(スーパーコンボ)』『9(ジェットブレイク)』

『ワイルド・スピード MAX』(c)2009 Universal Studios. All Rights Reserved.

 つまり『4』『5』『6』は『3』の前日譚になる。この前日譚として語られるのが、ドムとハンがファミリーだった時期の話だ。もちろん現在進行形の話でもよかったはずだが、過去を遡る形式になったのは、恐らく監督の続投も影響があったのだろう。『4』『5』『6』はすべてジャスティン・リンという監督が撮っていて、そのすべてにハンは登場している。リン監督とサン・カンは『ワイスピ』以前のインディーズ映画時代から組んで仕事をしていた。同じアジア系という意識から、2人の間には強い絆があることは想像に難くない。かくしてハンは将来的に死ぬという条件付きだが、時空の歪みによって物語的には生き返った。

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