『PUI PUI モルカー』劇場版の存在意義とは? 鑑賞体験を通して考えるシリーズの魅力

劇場版『PUI PUI モルカー』を考察

 今回、大画面で『PUI PUI モルカー』を鑑賞したことで感じたのは、モルカーたちがフェルトで出来た存在であることや、舞台となる街並みの手作り感がさらに伝わってくるということだ。スタッフクレジットでは、制作現場の写真が紹介されるが、たとえば、ストップモーションアニメーションの大手スタジオ“ライカ”と比較するまでもなく、その規模は小さく、スタッフの数もはるかに少ない状況が伝わってくる。

 だが、そんな環境でも、アイデアや撮影のセンスによって、新しい表現や刺激的な表現が可能になるのが、アニメーションの面白さだ。8話「モルミッション」では、数々のアクション映画のパロディーが見られるが、クライマックスの爆発シーンは、フェルトの毛を撒き散らすことで爆煙を表しているなど、その演出はあくまで低予算ならではのものとなっている。だがその表現は、ハリウッド超大作アクションを見慣れていると、むしろ印象的で面白いものに感じてしまう。そこには、われわれの子ども時代の遊びの延長にあるような範囲で描かれるからこその、ある種の愛しさが存在するのだ。そして、それこそがストップモーションアニメーションの本分といえるのではないだろうか。

 日本のアニメーション文化は、伝統的に手描き2Dが主流である。世界の大手スタジオがフル3DCGに移行した後も、日本の作品はCGを部分的にとり入れつつ、その伝統を堅持しているといえよう。だが、絵柄やセンスを含めて、日本の中での表現が画一化しているのも確かなことだ。しかし、アニメーションとは、本来もっと自由な発想で、遊びのようなものだったはずなのではないだろうか。本シリーズは、そんなアニメーションの根源的な楽しさと、新鮮さを提供するものとなった。今回の映画館での上映が、そんな自由な風に触れるきっかけを増やすことになるのなら、もちろん歓迎できるものだといえよう。

■公開情報
『とびだせ!ならせ! PUI PUI モルカー』
7月22日(木・祝)より2週間限定公開
原案:⾒⾥朝希、シンエイ動画、ジャパングリーンハーツ
監督・脚本:⾒⾥朝希
絵コンテ:⾒⾥朝希、⼩野ハナ、佐藤桂
アニメーター:いわつき育⼦、佐藤桂、⾼野真、⾒⾥朝希
美術:いわつき育⼦、開發道⼦、佐藤桂、佐藤華⾳、⾒⾥朝希、村松怜那、アトリエKOCKA
⾳楽:⼩鷲翔太
⾳響:野⼝あきら
声の出演:つむぎ(モルモット)
アニメーション制作:シンエイ動画/ジャパングリーンハーツ
製作:モルカーズ
配給:東宝映像事業部
(c)見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ
公式サイト:molcar-anime.com
公式Twitter:@molcar_anime

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