モー・ズーイーが語る、『親愛なる君へ』のテーマと使命 「生きて、世界と命を感じる」
“愛”にはさまざま形がある
――本作でも物語のキーとなっている同性のパートナーシップについてもお伺いしたいです。2019年から台湾では同性婚が法律で認められるようになったんですよね?
ズーイー:法律では同性婚が認められていますが、それでも、努力しなければいけないことがあります。実はまだ理解されていない、認められていないことがたくさんあって。もちろん、法律で認められたことは非常に大きな一歩ですが、その裏には、いまだに多くの傷ついている人、理解されていない人、気持ちを抑えなければいけない人がいます。なので、まだまだ頑張らなければいけないのです。その同性愛の問題だけではなくて、根本的にいうと、「人と人が理解し合うこと、受け止めあうこと」を我々は努力していかなければならない。僕もこれから引き続き俳優として、いろいろな人の物語を語り続けます。
――映画の時代設定は明らかにされていませんが、随所にある小道具などから少し前の時代が舞台なのがわかり、その中で同性愛のパートナーシップが理解されていない描写が多かったのですね。それ以外にも本作にはたくさんのテーマ……介護や、終末医療、家族のあり方などがあると思うのですが、あなたにとって、『親愛なる君へ』はどのような映画と捉えていますか?
ズーイー:いろいろなテーマがあるということは、台北で上映会を開いたときに、観客からも声があがっていました。話していただいた介護や家族のあり方もそうです。これは台湾に限らず、世界中のさまざまなところで、主流といわれる家族の形と違う家族がたくさん存在しています。同性愛カップルや、ご両親がいなくて、おばあちゃん、おじいちゃんと子供だけの家族とか。なので、『親愛なる君へ』が描いているのは、そういった広い世界、社会の中の1つの小さい部分です。僕自身が考えるこの映画のテーマは、「愛」だと思っています。「愛」というのも、いろいろな形があって。「他人を傷つける理由も愛からだ」という考えもありますね。たまに、私たちが「愛」だと言っていることは、実は「要求とか独占欲、自己満足」である場合もあります。あとは、「愛」を理由に他人を傷つけることも。例えば映画の中だと、子供の叔父さんのワン・リーガンは、甥ヨウユーのことを愛しているけど、その愛が結局、主人公のジエンイーを傷つけるんですね。一方、ジエンイーは亡きパートナーのリーウェイを愛しているけど、その愛が結局ヨウユーのお母さんを傷つけることになりました。なので、愛のさまざまな形や様相、そして愛が人を傷つける場合もあるということを理解する、というのが『親愛なる君へ』が伝えたいメッセージなんですね。そして、そこがわかったら、次のステップは「理解と許すこと」。それも、他人に対してだけではなく、自分に対しても。自分と他人との違いを理解して、受け止めて、他人の自分に対する誤解も理解して受け止める。そこから、傷つけられたことも理解して許さなければならない。結局、傷を治すのも「愛」なんですね。なので、僕にとって『親愛なる君へ』という映画のテーマは、愛の形、理解と許すこと、そしてそこからまた愛すことができる、ということだと考えています。
――その考えに非常に心動かされました。素敵な言葉をありがとうございます。“血の繋がっていない家族”を描いた作品は日本にも多く、本作のトーンも日本人にとって観やすくて親和性の高い印象があります。最後に、改めて日本の映画ファンに本作をどのように楽しんでほしいですか?
ズーイー:みんな社会を生きていくときに、孤独や理解されていないと思う気持ち……寂しい、どうしたらいいのかわからない、という気持ちが多少あると思うのですが、この映画が伝えたいのは、“あなたは一人じゃない、孤独ではない”というメッセージです。愛は、いろんな勇気と力を与えることができます。愛というのは、他人を温かくすることもできるし、人を温かい人にすることもできる。人間として生きていく中で、どうしても傷つけられることもあるし、それは避けられない苦痛です。しかし、心に愛があれば人を愛する、そして、自分を愛する力が絶対あるはずなんです。この映画のすべてのスタッフ、チェン・ヨウチェ監督も僕も、他のスタッフ・キャストさんが伝えたいのは、そういった温かいメッセージです。映画を観た方にもそう、感じていただければいいなと思っています。
■公開情報
『親愛なる君へ』
シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開中
監督・脚本:チェン・ヨウジエ
監修:ヤン・ヤーチェ
出演:モー・ズーイー、ヤオ・チュエンヤオ、チェン・シューファン、バイ・ルンイン
配給:エスピーオー、フィルモット
2020年/台湾/カラー/106分/シネマスコープ/5.1ch/原題:親愛的房客
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