『まめ夫』『あのキス』『ドラゴン桜』 2021年春ドラマから浮かび上がるヒットの法則

誰にでも伝わる“わかりやすさ”か、“考察”ありきの作品か

 地上波の21時台~23時台に放送された春ドラマを観て実感したのが「わかりやすさ」か「考察」のどちらかに振りきった作品がヒットしたという事象。

 前者の代表は平均視聴率14.8%の『ドラゴン桜』(TBS系)と12.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)の『イチケイのカラス』(フジテレビ系)。後者には『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、以下『まめ夫』)と『コントが始まる』(日本テレビ系)が当てはまる。

 『ドラゴン桜』は15年前に放送された同名ドラマの続編といえる内容だったが、番組カラーをアップデート。偏差値が低い高校生たちが東大を目指すというストーリーラインに加え、学校乗っ取りや復讐モードなど「半沢直樹テイスト」をがっちり入れ込んで幅広い世代の支持を獲得した。『イチケイのカラス』は、通常、現場に出ることのない裁判官が事件の捜査に乗り出すという『HERO』(フジテレビ系)スタイル+基本1話完結方式で手堅く数字を確保。

 そしてこの「わかりやすさ」と対極にあったのが『まめ夫』と『コントが始まる』だ。特に『まめ夫』は坂元裕二(脚本)が紡ぐ文学作品を映像で見ているようなドラマで、哲学的、詩的なせりふの応酬と画面の美しさ、物語にカットインしてくるビビッドなエピゾード(親友の突然の死、母親の秘密の恋人等)の数々など、深く読みたいポイントが盛りだくさん。Webにおけるドラマレビュー等のPVでいえば『ドラゴン桜』を凌いだのではないか。また、オリコンの「ドラマ満足度ランキング」(6月15日~6月21日放送を対象)最終回対決では『まめ夫』が『ドラゴン桜』を下し1位となっている。

 若い世代のテレビ離れが叫ばれる中、バリエーション豊富で質の高い作品も多かった2021年の春ドラマは、地上波ドラマを分析する上で非常に良質な教科書だと思われる。

 春ドラマから浮かび上がったヒットの法則=「誰にでもわかりやすく、カタルシスのある作品」or「深掘りしがいのある内容で考察という視点も提供するドラマ」。さて、7月スタートの夏ドラマがどんな展開を見せるのか、楽しみに追っていきたい。

■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter

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