『コントが始まる』は2020年代を代表するドラマになる 正攻法で挑んだ金子茂樹脚本の巧妙さ
むしろ、2010年代以降の社会的な不穏さの中で窮屈さを感じ、いつの間にかそれが当たり前になってしまった世代を主人公に据えた物語でありながらも、なぜここまでストレートに描写できるのか。たとえばマクベスの結成は10年前の6月であり、それは2011年の震災直後ということになる。あらゆる作品で使い倒されてきた震災の影をあえて避けることで、あくまでもこのドラマが提示するのは主人公たちとそれを包む社会との均衡ではなく、主人公たちとその内側の部分にあることがわかる。その上で、近年の連続ドラマに見られがちな引っ張った挙句に何らかの大謎が明らかになるような構成を取らず、ただ視聴者にマクベスの解散までの2カ月間という時間と、マクベス3人が歩んできた10年間の思い出を共有していく。それはつまり、彼らの内側に存在するものだけで物語が成立するということであり、どの時代にも容易に置き換えることができる普遍性を与えているわけだ。
もちろんそこには、視聴者に「彼らの物語を観ていたい」と思わせるようなキャストが必要となるのは言うまでもないだろう。その点では菅田=春斗、神木=瞬太、仲野太賀=潤平のマクベス3人を筆頭に、有村架純=里穂子と古川琴音=つむぎ、そしてここに芳根京子=奈津美も加えたい。マクベス3人は“過去”と“未来”の狭間で前にしか進んでいかない“現在”に置いていかれまいともがき、“過去”と“現在”を何らかの縋れるものとともに過ごしてきた中浜姉妹は“未来”となる新たなものを模索する。バリバリと働き“現在”と“未来”を見据えた奈津美のビジョンは、潤平と付き合い始めた高校時代という“過去”からの延長線上にある。それぞれ異なるドラマ性を携え、それでいて彼らと時間を共有したいと思わせる親近感を視聴者に与えてくれる。演じる側の俳優としても、演じられる側の役柄としてもあまりにも理想的だ。
それはまるで、1990年代後半から10年間に渡って世界中を魅了したアメリカのシットコムの名作『フレンズ』のようだ。主人公たち6人の世代的にも、男女3人というバランスにおいても通じるものがある。それぞれの形で夢を追う主人公たちの中に、恋愛描写や結婚などの要素も散りばめたり、彼らが語らう“場所”が存在することも青春群像には欠かせない。それに笑わせたり泣かせたりといったエモーショナルな部分を、登場人物たちの自然なやりとりに託しているところもよく似ている。
『フレンズ』の最終回では、主人公たちそれぞれが新たな道に進むことを決心した果てに、彼らが集まっていた“場所”のひとつであるアパートの部屋を去り、もうひとつの“場所”であるコーヒーショップに向かうところで幕を降ろした。『コントが始まる』では、マクベスの共同生活の部屋、中浜姉妹の部屋、メイクシラーズとボギーパッドと、彼らに4つの“場所”が存在している。その中のどれかから旅立つとなっても、主人公たちと時間を共有してきた視聴者の中では、物語の先の世界でも彼らがその場所でいつものように語らう姿が容易に想像できる。でもやはり“解散”という切ない結末がわかっているからこそ、彼らの物語が終わってしまうことへの躊躇いを持ったまま最終回に臨むことになるのだろう。
■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter
■放送情報
『コントが始まる』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:菅田将暉、有村架純、仲野太賀、古川琴音、神木隆之介
脚本:金子茂樹
演出:猪股隆一、金井紘(storyboard)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE/Warner Music Japan)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
公式Twitter:@conpaji_ntv