有村架純の姿が頭から離れない 『コントが始まる』『るろ剣』にみる、俳優としての到達点

有村架純の姿が頭から離れない

 作品のトーンに影響を与える役どころというと、公開中の『The Beginning』がまさにそうである。ここに有村架純という俳優の凄みを見た。「ここまですごいのか……」と感じ入り、鑑賞後もなかなか余韻から抜け出せなかったのは先述したとおりだ。本作で有村が演じているのは雪代巴というヒロイン。主人公・緋村剣心(佐藤健)の頬にある十字傷をつけた張本人であり、新時代において彼が“不殺の誓い”を立てるきっかけとなった人物である。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

 映画『るろうに剣心』シリーズは、今作を含めこれまでに五作が製作されてきた。第1作目が作られたのは2012年のこと。こちらでヒロインを務めているのは武井咲であり、以降は第4作目まで彼女がシリーズを支えてきた。それに対して有村がこのメガヒットシリーズに顔を見せたのは、今回の最終章2部作の前編にあたる『るろうに剣心 最終章/The Final』(以下、『The Final』)でのことだ。この最終章は剣心のパーソナリティに迫るものであり、『The Final』では彼が過去を省みる回想シーンに登場。『The Beginning』では人斬り時代の剣心が、“不殺の誓い”を立てるまでが描かれる。つまり今作では、武井咲はもちろん、蒼井優、土屋太鳳らシリーズを支えてきた日本映画界のヒロインたちが誰一人として登場せず、物語の核ともいえる一枚看板を有村が務めているのである。

 長く続いた人気シリーズのすべてを締めくくる最終作で、ヒロインを務めるということの任の重さーー。これは有村架純という俳優が、現在の映画界においてどような存在であるかを物語っているだろう。このポジションは観客だけでなく、製作陣からの支持も得なければならず、広く言えば全映画ファンの支持を獲得している存在でなければならないというわけだ。そしてこの選択と判断が功を奏していると思う。彼女が巴を演じることによって、本作はこれまでの諸作とは一線を画すものになっているのだ。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

 雪代巴とは、復讐のために剣心に近づき、そして彼を愛してしまい、葛藤し、やがて“斬殺”されてしまう悲劇のヒロインである。本作はとにかく暗い。過去四作では随所に笑える要素が配されていたが、こちらでは徹底的に排されている。時は幕末、戦乱の世であり、斬って斬って斬りまくる剣心は、人の心を持っていないかに見える。口数も少ない。そんな彼の前に巴が現れるのだが、彼女もまた言葉数は少なく、とんでもなく暗い。宿命的に不幸な二人であるから、相乗効果でさらに映画は暗いものに。しかし二人はしだいに親しい間柄となり、剣心は笑顔まで見せるようになっていく。

『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会

 映画のトーンを決定づけるのは主演の佐藤健だが、これまでと比べて異質な手触りとなる要素を作品に持ち込んだのは、やはり有村架純の存在だろう。まるで生気を失った佇まいの彼女の初登場シーンからしてすでに、これが“悲劇”に終わる事実を否応なく突きつけられる。巴の発する声、一挙一動には、得も言われぬ物悲しさが宿っているのだ。それが剣心とともに過ごしていくうちに、少しずつ明るさを帯びていく。その声と表情は、観客が劇中で目にすることができない“二人だけのドラマ”を物語るものでもあるだろう。映画で描かれていないことまでも、有村は役をとおして物語ってしまうのだ。スクリーンを超えて、私たち観客の中へと巴の感情が流れ込んでくるはずだ。

 『コントが始まる』の里穂子や、またも代表作の一本となった『花束みたいな恋をした』(2021年)の絹は等身大の人物である。地に足のついたキャラクター造形で、物語の中心に立っている。だがこの『The Beginning』での巴は、圧倒的にフィクショナルな人物だ。それも、世の中のすべての不幸をたった一人で背負ったような。人斬りの剣心がもはや“人ではなかった”ように、彼女もまた人ではないようにすら思えるくらいだ。悲しき人斬りの物語に、有村は絶対的な強度を与えている。『The Beginning』はプリクエル映画であり、そしてここから、シリーズ第1作目の『るろうに剣心』へと繋がっていく。有村が背負っているのは、この最終作たった1作だけではない。シリーズ全部だ。今後、シリーズのいずれかの作品を観るたびに、剣心の笑顔の裏に巴の姿を見ることになるだろう。有村はキャラクターをその次元にまで押し上げているのだ。いま、有村架純の俳優としての一つの到達点を、私たちは目の前にしている。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』
全国公開中
出演:佐藤健、有村架純、高橋一生、村上虹郎、安藤政信、北村一輝、江口洋介
原作:和月伸宏『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督・脚本:大友啓史
音楽:佐藤直紀
主題歌:ONE OK ROCK「Broken Heart of Gold」
制作プロダクション・配給:ワーナー・ブラザース映画
製作:映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
(c)和月伸宏/ 集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
公式サイト:http://rurouni-kenshin.jp
公式Twitter:https://twitter.com/ruroken_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/ruroken_movie/

■放送情報
『コントが始まる』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:菅田将暉、有村架純、仲野太賀、古川琴音、神木隆之介
脚本:金子茂樹
演出:猪股隆一、金井紘(storyboard)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:福井雄太、松山雅則(トータルメディアコミュニケーション)
主題歌:あいみょん「愛を知るまでは」(unBORDE/Warner Music Japan)
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/conpaji/
公式Twitter:@conpaji_ntv

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる