モダンなアート寄り怪獣映画? 滅茶苦茶を楽しむ『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
そうそう、人間といえば本作は極端な作品として評価されている。すなわち怪獣パートと人間パートの落差が激しいというものだ。キャラクターの魅力の乏しさについても声が多くあがっているが……それも若干否めない。ヴェラ・ファーミガにカイル・チャンドラー、ミリー・ボビー・ブラウンにサリー・ホーキンス、ブラッドリー・ウィットフォードに渡辺謙、そしてチャールズ・ダンスと錚々たる顔ぶれのキャストが集まっているのにも関わらず、人間パートは少し退屈に思えてしまうかもしれない。
これは正直、怪獣パートの迫力が逆に凄過ぎる故でもあるが、やはり魅力に欠けるキャラクターが少ないのとロジックや感情にかけた展開が続いてしまうことが原因だろう。例えば『ジュラシック・パーク』だって、恐竜が出てくる場面と人間だけが溜まっている場面がある。しかし、そこに落差がないのは人間パートでもしっかり魅力的なキャラクターたちがドラマを動かしているからなのではないだろうか。その点、本作は化け物に化け物をぶつけるしかない、傍観者としてのキャラクターが多いためドラマが弱い。いや、ドラマもあるといえばあるし、人間側にも実は“怪獣”が存在する。モナークの科学者、エマ・ラッセル(ヴェラ・ファーミガ)だ。そして彼女の夫マーク(カイル・チャンドラー)と娘マディソン(ミリー・ボビー・ブラウン)による、このラッセル家も滅茶苦茶なのである。お母さんのエマはキングギドラよりもこの映画で悪い、まさしくモンスターペアレントで、この3人家族のドラマには、ある意味怪獣たちの戦いよりも途方に暮れてしまうものがある。
しかし、もちろん人間パートにだってしっかりと見どころはある。渡辺謙演じる芹澤博士が単独でゴジラの神殿に向かうシーンだ。圧巻のスケールで描かれる海中の神殿をひとり突き進み、ゴジラに再び力を取り戻させるために芹澤博士は単身で任務につく。そこには、長年彼が追っていたゴジラとの対面、そして触れることができる感動と喜びが詰まっている。1954年の『ゴジラ』に少し重なる部分もあり、これまでのシリーズ作品を観ている人にとってはより一層、長年にわたる“友”に語りかける博士の想いが伝わってくる、力強くて結構泣けるシークエンスだ。
人間パートに退屈していたかと思いきや、すかさず怪獣を投入してくれる点で、本作は最初から最後まで飽きがこない。疾走感と迫力、バトルとプロットのありとあらゆる滅茶苦茶を楽しみながら、子供から大人まで大興奮でいられる『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』。リビングを暗くして、音量を近所迷惑にならないギリギリのラインまで上げたら、映画館で味わう高揚感を疑似体験できると思うので、是非やってほしい。そして観賞後は、来る決戦でゴジラとキングコングのどちらが勝つのか、思い思いに妄想を楽しむのもいいかもしれない。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。Instagram/Twitter
■放送情報
『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』
フジテレビ系にて、5月29日(土)21:00~23:10放送
出演:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、渡辺謙、チャン・ツィイーほか
監督:マイケル・ドハティ
脚本:マイケル・ドハティ、ザック・シールズ
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