若葉竜也、古川琴音ら『街の上で』キャストが大躍進 TVドラマから作家性の強い映画まで 

 今泉力哉監督作『街の上で』がブームになっている。2021年4月9日に全国11館で封切られると各館で満席が相次ぎ、作品の高評価も相まって上映館が一気に拡大。緊急事態宣言に伴う映画館の休業という厳しい状況下でも、公開劇場が累計108館にまで到達した(5月2日時点)。約1カ月で、累計の公開劇場が10倍になった形だ。

 もともと本作は、2020年5月1日に公開予定だった。下北沢映画祭から「下北沢を舞台にした映画を撮ってほしい」と今泉監督に打診があったのが、2018年1月。撮影は2019年7月に行われた。編集作業を終わらせ、2019年の10月13日に第11回下北沢映画祭でプレミア上映。新型コロナウイルスの影響で約1年の公開延期を決断し、ようやく今年の4月に劇場公開を迎えたわけだ。

 ご存じの通り、昨今の映画界は公開延期が相次ぎ、国内においても多くの作品が被害を受けた。映画において、公開延期は致命的だ。その理由の一つは、宣伝費。映画は劇場公開に向けて宣伝費からイベント(試写会やトークショー)資金や各媒体の出稿費、オピニオンのアサイン費用等々を捻出するのだが、それらは公開日に盛り上がりのピークを持っていくために使われる。いかに多くの人々にその映画を認知してもらい、興味を抱いてもらい、劇場に連れてこられるか――。そのための予算が、ここに該当するのだ(もちろん、全ての作品にいえるわけではないが)。

 そうした仕込みの最中で公開延期が発生してしまった場合、新たな公開日が決まっても予算が足りずに施策を仕込むことができず、再加熱できないまま不振に終わってしまう作品も、残念ながら出てくる(雑誌などは公開延期が決まった際に印刷が完了していることも往々にしてあり、やむなくそのまま発行されるケースも多い)。監督や出演者のスケジュールがすでに埋まってしまっていてプロモーション稼働ができない状況も大いにあり、さらには公開規模や期間が縮小してしまうことも。これらはあくまで大雑把な説明だが、公開延期は明確な逆境なのだ。

 ただ、こと『街の上で』においては、逆風の中でも大きな「怪我の功名」があった。それは、公開延期の期間に、出演陣の知名度が順調に上がったこと。 若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、成田凌といったメインのキャスト6人は当時から実力派ぞろいだったが、より確かな人気が付いてきた状態だ。

 今泉監督も『愛がなんだ』(2019年)、『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)、『mellow』(2020年)、『his』(2020年)、『あの頃。』(2021年)と順調に作品数を重ね、『有村架純の撮休』(2020年/WOWOW)や『時効警察はじめました』(2019年/テレビ朝日系)などのドラマのエピソード監督・演出も経験。いわば、彼らの躍進が強固なプロモーションとして、機能した形だ。極端な話、キャスト・スタッフの知名度が上がれば注目度も上がり、必然的にネット記事のPV(閲覧数)等も上がるわけで、公開における露出はより増えたのではないか(もちろんそれは、キャスト・スタッフの稼働協力あってこそ)。

 内容が素晴らしくても、時運に恵まれず埋もれてしまう映画は少なからず存在する。『街の上で』は企画の打診から3年以上をかけて劇場公開へとたどり着いたが、こうした運命を見事に回避し、「公開劇場が約10倍に拡大」という華々しい結果を出した。いま、緊急事態宣言における映画館の休業というさらなる逆境に立たされているが、何とか乗り越えてほしいものだ。

関連記事