“大阪のお母ちゃん”になった千代の帰るべき場所 『おちょやん』が描く“家族”と“家”

“大阪のお母ちゃん”になった千代の帰るべき場所 『おちょやん』が描く“家族”と“家”

 路地に人影が見える。割烹着姿のみつえ(東野絢香)があわてて外に飛び出し、通りの向こうの人物と顔を見合わせる。「おかえり!」。千代(杉咲花)が道頓堀に帰ってきた。

 『おちょやん』(NHK総合)第112回。熊田(西川忠志)に鶴亀新喜劇への出演を打診されてからというもの、千代の気持ちは落ち着かなかった。ラジオで一平(成田凌)の声を耳にしたことはそれに拍車をかけ、『お父さんはお人好し』の収録でも自分の出番を忘れそうになる。普段と違うお母ちゃんを心配し、春子(毎田暖乃)はくず湯を差し出す。くず湯は春子の生母さくらが作ってくれたものだった。娘の思いに触れた千代は帰郷を決意する。

 千代にとって2年ぶりの道頓堀。不在を詫びる千代を優しく迎える宗助(名倉潤)と対照的に、シズ(篠原涼子)は「ええことあれしまへん!」とキツく叱りつける。「あんたがどんだけ辛い思いしたかは、十分わかってます。せやけどな、もうええ大人だっせ」。千代の身を案じる親心。いつもの光景、いつもの人たち。千代が帰ってくる場所はここにあった。

 「家族」は本作を貫くテーマだ。血のつながりを超えた奇跡を現前した前週に続いて、最終週では「大阪のお母ちゃん」になった千代の帰るべき「家」が描かれる。長い間、家庭は千代にとって安息の場所ではなかった。テルヲ(トータス松本)のせいで住む場所を追われ、やっと築いた夫婦の場所も奪われた。肉親は千代に安心を与えてくれなかったが、最後に継母の栗子(宮澤エマ)が唯一血のつながった春子を託してくれた。

 家族のぬくもりを知らずに育った千代にとって家庭は自身の拠りどころになる場所ではなく、家族を支えるのが千代の立ち位置だったろう。テルヲやヨシヲ(倉悠貴)は言うに及ばず、一平や疑似家族的な新喜劇、ラジオドラマの共演者に対してもそのスタンスは変わらない。千代自身もそれ以上のものを望んでいたわけではなかった。千代にとっての家庭は、誰かのために存在する『人形の家』でもあった。

 しかし、千代を本当の家族だと思っている人はいる。育ての親だった宗助やシズ、親友で姉妹のようなみつえ、そして息子同然に愛情を注いだ寛治(前田旺志郎)。苦楽を共にした鶴亀新喜劇の仲間たちもそうだ。熊田の「竹井千代は道頓堀の舞台女優なんやて、みんなに知ってもらいたいんや」という言葉は「帰っておいで」という皆の思いを代弁したものだった。

 熊田は生前、千代のもとを訪れた鶴蔵(中村鴈治郎)の遺志を実現したことになる。また、幼かった千代に『人形の家』の台本を渡したのが熊田である。誰かのために生きてきた千代は、女優として歩む中で、気付かないうちに自身にとっての『人形の家』を飛び出していた。「大阪のお母ちゃん」と呼ばれるようになり、初めて自分が愛されて居続けられる場所を見出した。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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