『おちょやん』夫婦の別離を丹念に描いた理由 “大阪のお母ちゃん”になる重要ステップに
第1話の口上で、千代はこう言っている。「これは私が『大阪のお母ちゃん』になるまでの物語です」と。これまでの悲しみも苦しみも喜びも、すべてが「大阪のお母ちゃん」へとつながっていく。築いてきたものを全て剥ぎ取られ、身一つとなってしまった千代。しかし、もしかしたら人は執着というものをなくしたところから、初めて本当の幸福への扉が開くのかもしれない。今ふたたび、千代の原点である『人形の家』のノラの台詞が胸に迫ってくる。
「私はただ、しようと思うことは是非しなくちゃならないと思っているばかりです」
「私には神聖な義務が他にあります」
「私自身に対する義務ですよ」
「私自身に対する義務」とは幸福になることだ。このドラマは「苦しいことだらけの人生、不測の事態の連続の世の中でどう生きて、いかに自分を確立していくか」というメッセージであるとともに、自己実現の最終形として「大阪のお母ちゃん」になる千代の、とてつもなく大きな愛の物語なのではないだろうか。
9歳で生まれ故郷を後にして「テルヲの娘」という属性を捨てることで一歩を踏み出した千代が、四十路にして「二代目・天海天海の妻」という属性を捨てて、また新たなスタートを切る。最終章では、これまでのどの朝ドラでも見たことのないような景色が広がっている気がしてならない。次週の週タイトルは「竹井千代と申します」だ。
■佐野華英
ライター/編集者/タンブリング・ダイス代表。エンタメ全般。『ぼくらが愛した「カーネーション」』(高文研)、『連続テレビ小説読本』(洋泉社)など、朝ドラ関連の本も多く手がける。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/