『人形の家』『マットン婆さん』など、『おちょやん』の緻密に練られた劇中劇を紐解く

『人形の家』『マットン婆さん』など、『おちょやん』の緻密に練られた劇中劇を紐解く

 『マットン婆さん』は鶴亀家庭劇を立ち上げて2回目の公演の演目だった。一平が母親の無償の愛を描こうとした『母に捧ぐる記』の台本を千之助(星田英利)が大幅に手直しし、主役を母親からお手伝いのお婆さんに変更。題名まで変えて千之助が主役を演じたのだが、この『マットン婆さん』で表現した母親の愛情が、結局は形を変えて一平が伝えたかったものだったことに気づく。

 千代にとって「岡安」のシズ(篠原涼子)は母親のような存在になっており、駆け落ちしようとしていたみつえ(東野絢香)と福助(井上拓哉)に千代は必死で説得し、先代から拗れていた「岡安」一人娘みつえと「福富」の一人息子である福助の結婚話がまとまったのだった。

 この『マットン婆さん』は、一平のモデルと思われる二代目渋谷天外と須賀廼家万太郎(板尾創路)のモデルと思われる曽我廼家十郎の弟子、曽我廼家十吾の合作で松竹新喜劇の『アットン婆さん』をベースにアレンジした脚本になっている。実在の魅力的な人物がいて、基になる脚本の良さを生かしている面白さもあるが、それだけではない『おちょやん』らしさ全開のアレンジが観る人の心に刺さる要因となっているのは間違いないようだ。

 振り返ると、家庭劇がいちばん最初にやった『手違い噺』は喜劇という新しい演劇のジャンルを興した曽我廼家十郎が和老亭當郎というペンネームで書いた『手』という作品が基になっている。旗揚げ公演で、家庭劇の劇団員が初めて一つになって芝居をやり遂げた思い出があるだけでなく、千代は山村千鳥(若村麻由美)から「演じるということは、役を愛した時間そのもの」という言葉をもらったことで女優として覚醒した作品でもある。戦争中、芝居を諦められない千代が稽古場で真っ先に練習を始めたのもこの作品だ。

 千代は戦争中に大切なものを奪われ、芝居ができないどころか生きていくうえで役に立たないと芝居そのものを否定されるという経験をした。何が役に立つとか何が無駄だとかではなく、千代は自分がしようと思うことをしようとしている。今までもそうだったが、これまで以上にたくましく、正しさとは一体何なのか、前に進みながら、芝居をしながら千代は考えていくのだろう。

 女優になると決心して、山村千鳥一座の座長・千鳥のお世話係をしていた千代にチャンスが訪れ、『正チャンの冒険』の主役に抜擢されてから、千代は迷いながらも自分が信じる道を進んできた。

 大正時代に宝塚少女歌劇団で舞台化された人気の舞台で、正チャンのトレードマークの赤い毛糸の帽子が千代によく似合っていた。『正チャンの冒険』で楽屋に聖剣を忘れた千代が咄嗟のアドリブで言った「今まで、つらいことばっかりやったかも分かれへんけど、大丈夫、だんない。みんな一緒に楽しい冒険つづけよう!」という台詞が今となっては千代の人生のお告げのようにも感じられる。

 次週、千代は新しい時代に新しい喜劇に挑戦するようだ。千代の冒険にどんな喜びが待っているのか。

■池沢奈々見
恋愛ライター。コラムニスト。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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