『おちょやん』杉咲花演じる千代が向き合い続ける死 “天真爛漫”ではないゆえの強さ

『おちょやん』天真爛漫ではない千代の強さ

 NHK連続テレビ小説『おちょやん』も残すところ約1カ月となった。秦基博の歌う主題歌「泣き笑いのエピソード」の歌詞に象徴されるように、どんなに辛いことがあっても前に進んでいくこと、どんなに悲しいことがあっても最後には笑えること、それが本作のテーマになっているように思う。

 その歌詞を体現するように主人公・千代(杉咲花)はどんなときも真っ直ぐに前を向き、周囲を元気づけ、ここまで突き進んできた。千代の成長とともに演じる杉咲の凄みも日に日に増している印象を受ける。

 幼少期に母(三戸なつめ)を亡くし、学校にも通えず父・テルヲ(トータス松本)によって幾度となく苦しめられてきた千代。前朝ドラ『エール』の音(二階堂ふみ)のように自分の“やりたいこと”に突き進むこともできず、『スカーレット』の喜美子(戸田恵梨香)のような支え合う姉妹もいない。それでも、千代の回りには常に彼女を慕い、愛する人で溢れている。ひとえに、それは千代が人生の不条理に向き合いベストよりベターを求め、どんな人にも善良に向き合ってきたからだ。

 『半分、青い。』の鈴愛(永野芽郁)が典型的であったが(参照:『半分、青い。』視聴者の共感は鈴愛を支える影の存在にあり 北川悦吏子が描く“天真爛漫女子”の毒)、近年の朝ドラヒロインは、良く言えば「天真爛漫」、悪く言えば「わがまま」に描かれることが多かった。何かを成した人物の物語を描いている以上、“我が道を進む”キャラクターになることは必然とも言える。しかし、千代も実在の人物・浪花千栄子をモデルにしているが、天真爛漫とは少し違う。幼い頃に芝居に魅了され、女優を志したが、何かを犠牲にして何が何でも選んだというものではなく、生きていくこと自体が女優として生きることだった。幼き頃から母の死と向き合い、日々の食事も当たり前ではなかった千代。生きることよりも死が隣合わせにあったことで、千代は天真爛漫とは正反対ともいえる達観した性格となっている。

 天真爛漫なヒロインは、悪気なく自分の道を突き進む。その結果、周囲の人物にはヒロインを支える“良いヤツ”が配置されやすい。一方、『おちょやん』の場合は主人公である千代が「相手が何を求めるのか」を一番に考える性格のためか、周囲の人物たちの方が天真爛漫なキャラクターとなっている。第17週で登場した花車当郎(塚地武雅)など、新たな人物が登場するたびに魅力的に描かれるのも、千代の一歩引いたキャラクターゆえだろう。

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