『おちょやん』杉咲花の「人形の家」に込められた再生への祈り 千代に課せられた“義務”

『おちょやん』千代に課せられた“義務”

 福助(井上拓哉)と百久利(坂口涼太郎)が相次いで戦死したことが明らかとなった『おちょやん』(NHK総合)第88話。

 みつえ(東野絢香)はふさぎ込み、一平(成田凌)は愛国を謳った芝居で戦地に行く人々を応援してきたことから、自分が2人を殺したようなものだと自身を責める。そして、千代(杉咲花)は芝居という生きがいを失い、身も心も限界に。第89話では戦争が終わり、家庭劇が新たな目的のために動き出す。

 1945年8月15日、太平洋戦争は日本の無条件降伏で幕を閉じた。日本は絶対に勝つと信じていた国民はみな、戦争が終わったことに対する喜びよりも自分たちが“お国のため”と戦ってきたことの意味を考え途方に暮れる。

 それは、父を亡くした一福(歳内王太)も然り。福助の戦死を知った時、国のために戦って命を落としたのだから本望に違いないと言った一福。けれど結果的に国が負けたのなら福助の死は無駄だったのか、日本は国民に嘘をついていたのか。そう思いを巡らす一福に、千代は国のためではなく福助はみつえと一福を守るために戦ったのだと語りかける。

 そんな千代がひとり口にしたのは、女優を目指すきっかけとなった舞台「人形の家」で高城百合子(井川遥)が演じていたノラの台詞だ。

「私には、神聖な義務が他にもあります。私自身に対する義務ですよ」

 夫から人形のように愛でられていただけだと気づいたノラが、誰かの“妻”や“母”としての義務を捨て、ひとりの人間として生きる覚悟を決めた時の台詞を千代は高らかに読み上げる。戦時中、人々はたった一つの尊厳ある命すらも国に道具として扱われていた。しかし、誰ひとりとして失われていい命などなかった。福助にはトランペットを思い切り吹き、愛するみつえや一福と共に暮らしていきたいという願いが、百久利には尊敬する千之助(星田英利)の側で、家庭劇の仲間と芝居を続けたいという夢があったはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる