『おちょやん』福助のトランペットは道頓堀の日常を象徴 息子に託した平和な時代への思い

『おちょやん』福助のトランペットは道頓堀の日常を象徴 息子に託した平和な時代への思い

 トランペットを吹く。ただそれだけのことを命がけでしなくてはならない。『おちょやん』(NHK総合)第82回では、出征する福助(井上拓哉)の壮行会が催された。

 大正から昭和初期を舞台とする朝ドラで“避けて通れない”のが戦争に関する描写だ。芝居の街・道頓堀も戦時下の空気に包まれる。変わってしまった日常では互いの安否を気遣うのがせめてもの慰め。千代(杉咲花)も「良かった。菊(いしのようこ)さんも福松(岡嶋秀昭)さんも変わりのうて」と口にする。

 「強がってはるだけや。強がるしかあれへんねんて」と返すみつえ(東野絢香)。義理の両親の思いを代弁するみつえは、誰よりも強がっているのが自分であることも知っている。夫を見送る妻の願いは「せめて行く前に、思う存分、トランペット吹かしてあげたかったな」。クラシックもジャズも敵性音楽という状況で、福助のトランペットは眠ったままだった。

 みつえの願いをかなえようと、千代は一平(成田凌)に相談。壮行会を抜け出し、福助とみつえを伴って客のいないえびす座にやってくる。道頓堀で出会った彼らは、互いの子ども時代を知る者同士だ。福助のポンコツなひと吹きにずっこけるお約束のシーンや、小さかった4人がそのまま大人になったような姿から、一瞬、あの時代にタイムスリップしたような感慨を抱いた。

 だが、そこは昭和19年。通報で駆け付けた憲兵に対して、福助たちをとっさの機転で守ったのは、寛治(前田旺志郎)やルリ子(明日海りお)ら鶴亀家庭劇の座員たちだった。第16週でも、千代と寛治が芝居をして、百合子(井川遥)と小暮(若葉竜也)を特高警察から逃がす場面があった。興行で愛国ものを上演する時代に、さりげなく、はっきりと反戦のメッセージを忍ばせる『おちょやん』である。

 戦争からもっとも縁遠いはずの福助が戦地に送られるのは、悲劇としか言いようがない。それでも優しさを失わないのが福助だ。軍国主義に染まり、少年兵に志願したいと言う息子・一福(西村竜直)を「それはあかん」と否定してから、ひげが生えるまではダメだと言い直す。丸刈りにした兵隊ルックの福助は、子どもの夢を壊さずに平和な時代への思いを託した。

 トランペット未経験者だった井上は、本作をきっかけに猛練習。3月13日放送の『土曜スタジオパーク』(NHK総合)で「おちょやん楽団」の一員として演奏を披露するなど、目を見張る上達ぶりを示した。進軍ラッパとは違う福助のトランペットは、華やかな道頓堀の平和な日常を象徴していた。どうにかして福助が生きて帰ってくることを願うばかりだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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