清原果耶、同世代随一の実力を遺憾なく発揮 成田凌との共演で見せたコメディの才
だがそれだけではない。『普通じゃないのは君も一緒』というタイトルの映画とは裏腹に、この映画で清原果耶が見せるのは日常のリアリティの上手さ、“普通”を演じる演技の上手さである。初主演作『宇宙でいちばん明るい屋根』のジブリ的高校生ヒロインよりもう少し等身大のリアリティに寄せた、今時の普通の10代の演技。これは10代なら誰にでもできそうに見えて、一番繊細で難しいものだ。少しの力加減でやたらとにニヒリスティックになったり、記号的な「ツンデレ」演技になってしまう難しい役を、清原果耶は主人公・秋本香住の微妙で複雑な内面心理を観客に伝える見事な演技力で表現し、観客を自然に感情移入させることに成功している。
『まともじゃないのは君も一緒』に対する映画ファンの評価はほぼ絶賛に近い。これまでの高い評価にさらにコメディの才能も証明した清原果耶は、女優として向かうところ敵なしにも見える。だが、彼女自身の才能ではどうにもならない不運に見舞われることもある。昨年から全世界を襲った新型感染症の大流行である。本来なら昨年高校を卒業した清原果耶は、今まで学業との両立でセーブしていた芸能活動に一気にアクセルを踏むタイミングだったろう。所属事務所も、そして映画界やテレビ局も、彼女のための場所を空けて待っていたはずだ。だが2020年を襲ったのは、日本中でほとんどの映画撮影がストップに追い込まれる緊急事態と、長く続く映画館の自粛モードだった。清原果耶が高校を卒業したのは2020年3月、あの日本中の高校3年生が「友達と過ごす最後の1カ月」を休校処分によって失った、「失われた3月」を経験した世代なのだ。
映画産業へのダメージはまだじわじわと残っている。正直に言って、映画ファンや批評家の絶賛に比較して『まともじゃないのは君も一緒』の興行収入は伸び悩んでいる。映画や俳優の演技の素晴らしさから考えればもっとヒットしていい作品だと思うのだが、これは今作に限らず、ビッグヒット映画が生まれる一方で、『あのこは貴族』のような小規模だが映画ファンから高い評価を得る作品の観客動員が伸びにくくなっている傾向があるのだ。これはレイトショーなどが規制されていて、社会人が足を運びにくいのも関係しているのかもしれない。
だが、こうした逆風も押し返せるだけの力が清原果耶にはある。5月から始まる朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』は、彼女の演技力と才能を多くの視聴者に知らしめ、国民的スターへの階段を一歩登らせる作品になるだろう。今でも清原果耶の出演作には作品主義的、クオリティ重視の傾向があるのだが、大きく成長した彼女が来年以降、質の高い日本映画に出演することで、映画館に再び観客を連れ戻してくれることを祈りたい。
■CDB
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■公開情報
『まともじゃないのは君も一緒』
全国公開中
出演:成田凌、清原果耶、山谷花純、倉悠貴、小泉孝太郎、泉里香
監督:前田弘二
脚本:高田亮
音楽:関口シンゴ
プロデューサー:小池賢太郎、根岸洋之
配給:エイベックス・ピクチャーズ
製作:「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会
共同幹事:エイベックス・ピクチャーズ ハピネット
企画製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ、マッチポイント
(c)2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会
公式サイト:matokimi.jp