『俺の家の話』第8話はあまりにも切ないラストに 宮藤官九郎が描く“介護の課題”

『俺の家の話』第8話が描く介護の課題

 タクシーの後部座席で男女が手を握りあう姿というのは、それだけではずいぶんと典型的なシチュエーションになりかねないものだが、直前にお互いが手をアルコール除菌するというワンクッションを置くことで、たちまちどこか間の抜けた、ユーモラスで魅力的な場面へと様変わりする。寿一(長瀬智也)がさくら(戸田恵梨香)に試合中にプロポーズをした前回のラストから連なる3月12日放送の『俺の家の話』(TBS系)第8話は、次々と畳みかけるように起こる波乱の連続の果てに、あまりにも切ないラストが待ち受けるエピソードとなった。

 さくらとの関係を踊介(永山絢斗)に言い出せないでいる寿一は、あることがきっかけでアキレス腱を断裂。2週間の車椅子生活を余儀なくされてしまう。そんな折、踊介は寿一とさくらの関係を知ってしまい、舞(江口のりこ)は長田(秋山竜次)の浮気や長年抱えてきた辛さを吐露し、観山家に寄り付かなくなってしまう。さらに寿一に代わって寿三郎(西田敏行)の風呂当番をしていた寿限無(桐谷健太)までもが家を出て行ってしまい、広い家に残された車椅子の親子。やがて2人は、寿三郎の葬儀のプランを考え始めるのである。

 家族の中で介護を主だって背負ってきた人物が、予期せぬ怪我などで介護ができなくなってしまったときに何が起きるかという、介護のひとつの大きな課題を浮き彫りにした今回のエピソードは、同時にいくつもの描くべき事柄を描写していく。例えば長田の浮気を問い立てる場面での舞の言葉。寿三郎の浮気癖のせいで母がいつも自分の部屋に来て泣いていたことや、実は寿限無に密かに想いを寄せていたこと。そして「この家で女に生まれて女でいるのがどんだけしんどいか。生まれた時から数に入っていない」と、伝統芸能の世界における習わしによって生まれる性差による孤立感、葛藤もしっかりとすくい取る。

 また、さくらとユカ(平岩紙)が「与えてくれるけど、返しても受け取ってはくれない」と、本作を構成する主要要素である「能」と「プロレス」の類似性を語りながら、寿一という人間について語らい合う部分も大きな意義を持つシーンといえよう。そこに劇中で登場する能の演目『隅田川』が、寿三郎と寿一の親子の筋書きと符合していく様が加わることで、「能」である理由がより強固なものとなる。長年捜しつづけてきた息子の亡霊と出会う母親を描く『隅田川』。その別れの場面の哀しみが、グループホームでいつまでも寿一の背中を見送りつづける寿三郎の心理状態と重なっていく。介護の対象である寿三郎が“家”を離れるということは、この物語のひとつの結末と呼べる部分でもあろう。

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