“最狂”の言葉に偽りなし? ソ連再現プロジェクト『DAU. ナターシャ』に圧倒される

“最狂”に偽りなし『DAU. ナターシャ』

 実は最近、「ソ連の記憶」を呼び起こす映画が続けて公開されている。先述した1930年代の大虐殺ホロドモールに迫った『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019年/監督:アグニェシュカ・ホランド)や、アーカイヴ映像の再構成でスターリニズムの実相を改めて見つめるセルゲイ・ロズニツァ監督の“群衆ドキュメンタリー”映画『粛清裁判』(2018年)や『国葬』(2019年)。さらに元KGBスパイの英国人女性を描いた実話ベースのサスペンス映画『ジェーンの秘密』(2018年/監督:トレヴァー・ナン)など……。

 これらは一様にコロナ禍の前に制作された映画だが、民主主義の脆弱さがあらゆる意味で露わになる現在、全体主義下の「ソ連の記憶」は、いまの我々、世界構造が行く先の戒めとして必然的にせり上がってくる。

 ちなみに劇場映画第2弾の『DAU.Degeneration(原題)』をはじめ、『DAU』シリーズの映画は続編もどんどん仕上がりつつある。イリヤ・フルジャノフスキー監督はロシア国内で10本の『DAU』作品を上映したいと考えているが、そのうち『DAU. ナターシャ』を含む4本は「ポルノのプロパガンダ」との当局の判断で上映禁止となった。「ソ連全体主義」の残響や実質がまだ終わっていないことの端的な証左だ。

 フルジャノフスキーの今後の展望は、『DAU』映画を全て観られるデジタル・プラットフォームを作ること。そうすれば、ジェイムズ・ジョイスの小説『ユリシーズ』よりも差別化された意識の旅を観ることができるはすだ、と語っている。

■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。

■公開情報
『DAU. ナターシャ』
2月27日(土)より、シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督・脚本:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ
出演:ナターリヤ・べレジナヤ、オリガ・シカバルニャ、ウラジーミル・アジッポ
撮影:ユルゲン・ユルゲス
配給:トランスフォーマー
2020年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作/ロシア語/139分/ビスタ/カラー/5.1ch/原題:DAU. Natasha
(c)PHENOMEN FILMS 
公式サイト:www.transformer.co.jp/m/dau/ 
公式Twitter:@DAU_movie 
公式Instagram:@DAU_movie

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