『犬鳴村』はただ絶叫するだけのホラー映画ではない 描かれた“真の恐怖”に迫る

 そして、不意に意外なものが飛び出してくるのも、清水監督の作風である。犬鳴村に行ったことで異常な行動をするようになる登場人物の、まさに観客へのいやがらせのような最期は、不謹慎ともいえる屈折したユーモアを感じとることができる箇所だ。スイカに塩をかけると、より甘さが引き立つように感じるのと同じく、恐怖の表現に滑稽な要素が混じっていることで、清水監督の作品はより一層不気味なものになっているのである。

 『犬鳴村』の一連の怪談は、おそらくは口述で伝わり、細かな出来事や創作、土地の因習や偏見などがミックスされ変化していったもので、現代の「フォークロア(伝承)」とも、「都市伝説」とも呼ばれるものとなっている。しかし、これほど様々な話が多岐にわたり、一つの土地に結ばれているというのは珍しい。その意味では、年代はより古くなるが、民俗学者・柳田國男が研究した岩手県の遠野民話に近いものを感じるところだ。

 柳田國男にかつて様々な怪異を語り、名著『遠野物語』(1910年)を完成させる立役者となった佐々木喜善は、遠野にある生家のすぐそばにある、「ダンノハナ」と呼ばれる共同墓地に眠っている。筆者もまた『遠野物語』を読んでダンノハナを訪れたが、斜面に築かれた墓地に登っていくと、土地の田畑や山々を一望できるようになっていることに気づいた。それは埋葬されている先祖の霊たちに代々の土地をこれからも見守ってほしいと願う気持ちからだろう。

 『犬鳴村』に登場する、ある血筋や関係者を象徴する墓場もまた、実家の人々を見守れる位置にあり、そこに霊が立っているという表現がある。それは血筋を引き継ぐ主人公たちにとって、慰めであると同時に、人を土地に縛りつける一種の“呪い”のようでもある。本作で最もリアリティがあって恐ろしいのは、このように土地や家柄などが個人の生き方にまで影響してしまうという、日本文化の慣習そのものなのではないだろうか。このようなテーマへとつながることで、本作はただ絶叫するだけのホラー映画ではなく、もっと深いところにある恐怖を喚起させる作品となっているのだ。

 公開中の新作『樹海村』は、「最恐の村」シリーズ第2弾として、やはり実際に存在する富士の青木ヶ原樹海を舞台とした作品だ。自殺志願者が頻繁に訪れることで問題となっているこの森は、方位磁石が役に立たず、一度迷ったらなかなか抜け出せないということで海外でも話題になっていて、ガス・ヴァン・サント監督作『追憶の森』(2016年)の舞台ともなっている。『樹海村』は、さらにインターネットの掲示板で広まった怪談「コトリバコ」の要素が加えられ、さらに現代的な不気味さを放つ作品となっている。

 恐ろしい村といえば、一時期TV番組で何度も特集されて国民的な都市伝説となった、青森県の「杉沢村伝説」を思い出す人も多いだろう。今後「最恐の村」シリーズで、ぜひ清水監督に手がけてもらいたい題材だ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『犬鳴村』
TBSにて、2月10日(水)深夜26:05~28:05放送
出演:三吉彩花、坂東龍汰、古川毅、宮野陽名、大谷凜香、奥菜恵、須賀貴匡、田中健、寺田農、石橋蓮司、高嶋政伸、高島礼子
監督:清水崇
脚本:保坂大輔、清水崇
原案:清水崇、保坂大輔、紀伊宗之
音楽:海田庄吾
主題歌:「HIKARI」Ms.OOJA(UNIVERSAL SIGMA)
(c)2020「犬鳴村」製作委員会

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