Clubhouseなど最旬キーワードも 「ゲームストップ株騒動」が映画業界と深く関係する理由

「ゲームストップ株騒動」と映画業界の繋がり

 アメリカにおける2021年1月の水曜日は、4つの“I”で言い表せる。1月6日は“Insurrection(暴動)”で議事堂襲撃事件を表し、13日は”Impeachment(弾劾)“で、史上初となる2度目のトランプ前大統領弾劾訴追決議案が下院で可決された。20日はバイデン新大統領の”Inauguration(就任式)“、そして27日は”Investment(投資)”の大混乱を表す。その“投資”について、1月末に勃発した「ゲームストップ株騒動」は、現在も盛んに報道が行われている。

 ことの発端は、インターネットのフォーラムサイトReddit内の投資フォーラム“Wall Street Bets(WSB)”で情報交換をしていた個人投資家が集い、投資アプリ「ロビンフッド」を使い特定銘柄の株を購入したことから始まった。彼らが狙いを定めた銘柄は、ウォール街のヘッジファンドが“空売り(ショート)”と呼ばれる手法で取引していた銘柄で、ロビンフッダーたちが大量の買い注文を入れたおかげで株価は高騰、ショートスクイズ(空売りによって供給不足・需要過多となった銘柄が高騰する現象)を起こしてしまった。株価下落を想定し空売りをかけていたヘッジファンド数社は、青天井で高騰する高値で株を買い戻さなければならなくなり、敗北を宣言する事態となった。WSBで情報交換されていた、ヘッジファンドが空売りをかけていた銘柄はいわゆる“死に体ビジネス(dying business)”企業で、その中にはゲーム周辺機器小売店のゲームストップ、全米に展開するシネコンチェーンのAMCエンターテイメント、スマートフォンが誕生する前は人気機種だったブラックベリー、カジュアル衣料の一大チェーンだったExpressなどが含まれている。ゲームストップの株価は1月27日の135%上昇を含めると、1月に入ってからすでに1700%上昇、AMCは300%、ブラックベリーは275%も上昇していた。

 と、ここまでがニュースで報じられている情報だ。アメリカの株式市場で起きた特定銘柄の株価上昇・下落がなぜリアルサウンド映画部で報じるに値するかというと、この現象には現代を読み解く様々な要素が含まれていて、近いうちに数々の映像作品となり、気鋭のクリエイターが事件の一部始終を解き明かしていくことになるからだ。

 報道による騒動のおおまかな考察は、いけ好かないビジネスをしているヘッジファンドを個人投資家グループがギャフンと言わせた、エスタブリッシュメントVSアウトサイダーというものだった。よくある既定路線である。また、インターネットを駆使した新手のいたずらとも見られ、K-POPファンがTikTokで呼びかけてトランプ陣営の支持者集会のチケットを買い占め会場を空にした事件や、バイデン大統領就任式でのバーニー・サンダース上院議員のミトン(手袋)がインターネットミーム化し一瞬のうちに拡散されたことと同類で、暇を持て余したネットユーザーが束になり社会にもの申した、というもの。見方によっては、SNSによって集結した暴徒が民主主義の根幹を揺るがす事件を起こした1月6日の議事堂襲撃事件も、同列に語ることができるかもしれない。安易な株取引アプリが乱立し、パンデミックによりジェットコースターのような動きを見せた株式市場に大量の未熟なトレーダーが参入したことによって、市場のルールが崩壊したと結ぶ論調だ。

 だが、その市場のルールは本当に機能していたのか?という言説もある。スマートフォンで簡単に使える株取引アプリの「ロビンフッド」は、ゲーム感覚で小規模取引ができることから若い世代に人気がある。ヘッジファンドが空売りをかけていた銘柄、ゲームストップ、AMC、ブラックベリー、Expressなどは、市場と消費者の変化に対応できずに厳しい経営状況に追い込まれたと見られる企業だ。それと同時に、アメリカの若者文化を担ってきた、ある世代にとって馴染み深いブランドでもある。新型コロナウイルスのパンデミックは、配信事業者の台頭によってじわじわと経営不振に追い込まれていたシネコンチェーンのAMCを容赦なく直撃した。だが、AMCはロビンフッダーが株を買い漁る直前の1月25日に、約9億ドルの追加資金を得て破産危機を脱したと発表している。市場がすっかりオンラインゲームに移行し、ゲーム周辺機器販売ビジネスでは苦労しているように見えたゲームストップも、決算書を読み解くと極めて健全な財務状況であることがわかっている。ブラックベリーも、今は携帯端末ビジネスではない分野に業務転換している。金融のプロであるはずのヘッジファンドは、目先の情報だけでそれらの企業に狙いを定め、空売りをかけて食い物にしようとしたーー。中世の物語の主人公、ロビンフッドの物語を思い出すと、この騒動を違った視点で見ることができるだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる