挑戦的作品連発のNHKドラマ 『ここは今から倫理です。』など異色作が生まれる理由
気鋭クリエイターと人気俳優のコラボレーション
映像の脚本執筆経験が少ないクリエイターを積極的に登用し、そこにベテランや勢いのある俳優をキャスティングするのもNHKドラマの特徴のひとつ。
現在O.A.中の「よるドラ」『ここは今から倫理です。』では、脚本にタカハ劇団主宰の高羽彩を擁し、主演に『なつぞら』(NHK総合)、『ホームルーム』(MBS)、『先生を消す方程式。』(テレビ朝日系)などの山田裕貴を登用。倫理と高校生という絶妙な掛け算を社会性のあるエンタメとして成立させている。
BSでは内館牧子の原作をてがみ座の長田育恵が脚本化し、主演・三田佳子に加え、松下由樹や田中哲司、小松政夫らの実力派もキャストに名を連ねた終活ドラマ『すぐ死ぬんだから』を放送。朝ドラではベテラン脚本家が本を書き、若手俳優が主演する流れが通例だが、現代ドラマの枠ではそれを反転させ、新鮮な化学反応を生み出している。
公共放送として挑戦し続ける姿勢
公共放送であるNHKのドラマ制作において、企業スポンサーが存在しないのは先に書いた通りだが、そのことで社会的な問題に斬り込む作品を積極的に送り出せるのもNHKの強み。
たとえば、野木亜紀子脚本・北川景子主演の『フェイクニュース』や、安達奈緒子脚本・木村文乃主演の『サギデカ』では、フェイクニュースや特殊詐欺で人生を狂わされた被害者だけではなく、図らずも加害側に堕ちてしまった人々の姿まで描き、森下佳子脚本の『だから私は推しました。』では、地下アイドルとそのメンバーに金銭をつぎ込む女性オタクの関係、『不要不急の銀河』では、ドキュメンタリー部分を交え、コロナ禍に生きる家族やその周辺の人物にスポットを当てた。これらいずれのドラマも放送時には大きな反響を呼んでいる。
NHKは民放と比べ、「今、これを世に出す意味」をより強く意識したドラマ制作を実現していると感じる。もちろん、視聴率を無視していいという話ではないが、民放の数字至上主義とは一線を画した作品を制作し、ドラマを通して社会問題を提起することは公共放送としての大きな意義でもある。
また、NHKのドラマ班は、他のどの局よりも映像以外の分野でも活躍する俳優にスポットを当て、作品内で光らせるのが上手い。最近で言えば『おちょやん』の若葉竜也や大川良太郎、『エール』の吉原光夫、『なつぞら』の板橋駿谷、少し前だと『ハゲタカ』の田中泯や『女神の恋』の山口祐一郎。こういう人材を発掘できるのは、スタッフが演劇やミュージカル、歌舞伎や舞踊が上演される劇場に足を運び、次に配役する俳優をつねに探しているということだろう。
ゲリラ的なドラマ制作でエンタメ界に一石を投じているのがテレビ東京だとすれば、NHKは盤石な箱を使い、クリエイター、俳優ともに新たな才能を発掘し、民間企業への忖度がない中で良質なドラマを世に送り出す。じつは地上波各放送局の中で、1番実験的な試みを行っているのもNHKドラマだと感じる。
各VODが加入者を増やす中、NHKは今度どのようなドラマで社会に問題を問うていくのか。その挑戦を一視聴者としてしっかり見つめていきたい。
■上村由紀子
ドラマコラムニスト×演劇ライター。芸術系の大学を卒業後、FMラジオDJ、リポーター、TVナレーター等を経てライターに。TBS『マツコの知らない世界』(劇場の世界案内人)、『アカデミーナイトG』、テレビ東京『よじごじDays』、TBSラジオ『サキドリ!感激シアター』(舞台コメンテーター)等、メディア出演も多数。雑誌、Web媒体で俳優、クリエイターへのインタビュー取材を担当しながら、文春オンライン、産経デジタル等でエンタメ考察のコラムを連載中。ハワイ、沖縄、博多大吉が好き。Twitter:@makigami_p
■放送情報
よるドラ『ここは今から倫理です。』
NHK総合にて、毎週土曜23:30~放送【全8回】
出演:山田裕貴、茅島みずき、池田優斗、渡邉蒼、池田朱那、川野快晴、浦上晟周、吉柳咲良、板垣李光人、犬飼直紀、杉田雷麟、中田青渚、田村健太郎、梅舟惟永、異儀田夏葉、藤松祥子、川島潤哉、三 上市朗、陽月華、山科圭太、木村花代、古屋隆太、成河
脚本:高羽彩
原作:雨瀬シオリ『ここは今から倫理です。』
制作統括:尾崎裕和、管原浩
音楽:梅林太郎
演出:渡辺哲也、小野見知、大野陽平
写真提供=NHK