『逃げ恥』は“答え”ではなく“一緒に考えるきっかけ”をくれる 2021年を明るく生きていくエール

答えではなくきっかけをくれる『逃げ恥』

愛情でも友情でも「好かれること」は嬉しいこと

 みくりと平匡の出産と並行して、百合の子宮体がんが発覚する様が描かれた。看護師長になったという高校時代の旧友・花村(西田尚美)と再会し、なにげなく離した体調不良の相談が、早期発見のきっかけとなった。

 1人で生きる選択肢が尊重されるようになった現代。だが、病を患うとなるとまた話が大きく変わる。妹はぎっくり腰、姪っ子のみくりはつわりで……と困ったとき、花村が付添をしてくれた。家族ではないけれど、頼れる誰かがいるということは大切だ。それまで1人で頑張ろうとしてきた人こそ、そういう誰かを作るのは難しいかもしれない。自己責任が叫ばれる社会だけれど、やっぱり人は支え合わなければならないときがあるのだ。

 また、花村と百合のやりとりには、セクシャルマイノリティの話題も含まれる。花村は同性の恋人と暮らしており、高校時代には百合に想いを寄せていたことを明かす。だが、その好意に対して自然と「愛情か友情かどっちかなと思ったけど、どっちの意味でも嬉しいなって思ったよ」と応えてみせる百合。

 どんな意味であっても、人が人を愛するというのは美しいこと。だが、同性パートナーは家族と認められないケースもまだまだあると沼田(古田新太)&梅原(成田凌)カップルは語る。それでも、今できる限りの方法で愛を育んでいるカップルがいる。花村とその恋人とのエピソードについては、原作漫画でぜひ続きを読んでいただきたい。

2021年を生きる私たちへ「大丈夫、世界はまだこんなにも美しい」

 みくりの出産後、平匡は育休を取り、2人の育児が始まった。生まれた娘の名前は、亜江(あこう)。名付けのシーンで「性別が途中で変わるかもしれないから(男女どちらでも使いやすい名前を)」というセリフが出てくるのも、実に今っぽい。

 だが、社会は大きく変化する。2020年、私たちが生きたあの1年がやってきたのだ。不穏な空気は日に日に増殖し、絶望が世界を包んだ。未曾有の事態に平匡は育児休暇どころではなくなり、子を守ろうというみくりの神経も張り詰める。目に見えないウイルスは、まるで新しい呪いのように社会を蝕んでいく。

 千葉・館山へ疎開することにした、みくりと亜江。平匡との別れ際、ハグをためらう2人が切ない。「ハグの日」が2人を近づけ、妊娠中の激動の日々を乗り越えたときもハグで称え合った。触れるということは、言葉を交わすこと以上に気持ちを共有することができること。でも、それができないというコロナ禍の現実が、2人の姿から見ている私たちも実感せざるを得ない。

 惜しい人を亡くした。家族にも会えなくなった。仕事ができなくなった。生活が苦しくなった……今もなおその不安に押しつぶされそうになっている人がいる。その悔しさ、やるせなさ、悲しみを噛み締めた上で、あえて2020年に意味を持たせるとするならば、私たちは失うことでいかに日常が大切なものだったかを強烈に痛感した。

 これほどに混乱を極めた今だからこそ、平匡がつぶやく「大丈夫、大丈夫だまだ。世界はまだ、こんなにも美しい」という言葉に励まされる。ネガティブな情報が溢れているが、そのなかにも一筋の光となるようなものを見つけることができる。

 それは、誰かと繋がる時間だ。宇宙空間にたった独りで放り出されたような気分になる夜でも、誰かと繋がる技術が現代にはある。家族だったり、家族じゃなかったり、名前がつかない関係性だったとしても。

 『逃げ恥』は答えではなく一緒に考えるきっかけをくれる作品だ。正解かどうかは、振り返って初めて見えてくるものだ。生きていれば、必ず会える。その日を信じて、今は工夫をしていくしかない。誰かと繋がって、それぞれが「つらい」を比べることなく吐き出して、少しでも優しい社会を1人ひとりが願って。2021年を明るく生きていこう。私たちと一緒に『逃げ恥』ワールドも懸命に生きているということを胸に。そして、つらくなったときには『逃げ恥』の話題をきっかけに誰かと繋がっていこうではないか。その逃げ道こそが、きっと役に立つ。

■作品情報
新春スペシャルドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』
出演:新垣結衣、星野源、大谷亮平、藤井隆、真野恵里菜、成田凌、古舘寛治、細田善彦、モロ師岡、高橋ひとみ、宇梶剛士、富田靖子、古田新太、石田ゆり子、西田尚美、青木崇高、滝沢カレン、池谷のぶえ、ナオト・インティライミ、金子昇、Kaito、前野朋哉
原作:海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』(講談社『Kiss』所載)
脚本:野木亜紀子
プロデューサー:那須田淳、磯山晶、峠田浩、勝野逸未
演出:金子文紀
音楽 :末廣健一郎、MAYUKO
主題歌:星野源 「恋」(スピードスターレコーズ)
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/NIGEHAJI_tbs/
公式Twitter:@nigehaji_tbs
公式Instagram:nigehajigram

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる