『逃げ恥』は“答え”ではなく“一緒に考えるきっかけ”をくれる 2021年を明るく生きていくエール

答えではなくきっかけをくれる『逃げ恥』

 必ず、必ず、生きていれば、また会える――。

 収束の兆しがまだまだ見えないコロナ禍に、混乱している2021年のお正月。忘年会や新年会、里帰りなど、会いたい人と会えない年末年始を過ごしている人も少なくないはずだ。そんな中、『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(TBS系)がオンエアされた。

 2016年10月に放送開始した『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、海野つなみの同名漫画を原作に、みくり(新垣結衣)と平匡(星野源)の雇用関係としての契約結婚を描いた。お互いにとっては最良の手段となった契約結婚。しかし、周囲に理解を求めるのは難しいと考えた2人は度重なる話し合い、「火曜はハグの日」などの試みを経て、“夫婦”というプロジェクトを進めていく。「夫とは」「妻とは」「結婚とは」……それまで“普通”として大きく括られてきたものを因数分解し、自分たちならではの解を導こうとする2人。その過程で、信頼関係と共に恋が生まれていくラブストーリーが新しかった。あれから4年が経った。私たちの“普通”はどのくらいアップデートされただろうか。

物語の願いは「令和のうちにもっと優しい社会に」

 本当の恋が生まれ、事実婚を続けていたみくりと平匡。2人の結婚生活は実に穏やかだった。最新家電を積極的に用いて家事の負担を減らし、それぞれの生活リズムを大切にした暮らし。夫婦としても板についていた。だが、2人が望む選択的夫婦別姓制度は成立せず、さらにみくりの職場では産休・育休を考えて女性社員が妊娠する順番を待つなど、世の中はなかなか進んでいないようだ。

 厳しい現実を前にすると妄想が捗るみくりは、「令和」の元号発表会見をしてみたり、『ねほりんぱほりん』(NHK)に出演してみたりと大忙しだ。テレビ局を超えたコラボはさすが『逃げ恥』。社会問題をグサリとえぐりながらも、クスリとさせてくれる緩急がうれしい。

 そんなとき、みくりの妊娠が発覚。おめでたいことなのに「ご迷惑をおかけしてすみません」と職場の人に謝らなければならない空気。夫婦2人で家族になろうという考えを持つ平匡も、育児休暇の取得を申請する。だが、プロジェクトリーダーの灰原(青木崇高)から「男がそんなに休んでどうするんだ」という新たな壁が立ちはだかる。

女性も男性もそれぞれの「つらい」をハグできたら

 今回の新春スペシャルでは、平匡の苦悩が中心として描かれる。理想の父親という潜在的なプレッシャーと、新しい時代の夫婦像を描いていきたいという思いの狭間でいっぱいいっぱいになっていく。だが、それをうまく吐き出す方法を平匡は知らない。「つらい」と愚痴ることも「男らしくない」という思い込みの前に、気が引けてしまうのかもしれない。

 連続ドラマでは、みくりの親友でシングルマザーのやっさん(真野恵里菜)、独り身で楽しく生きる伯母の百合ちゃん(石田ゆり子)など、異なる生き方を選んだ女性たちにフィーチャーすることで女性の呪いを見つめてきた『逃げ恥』は、「男らしくあらねば」という男性の呪いもないことにはしない。

 積み重なり膨れ上がったストレスは、やがてパンクのときを迎える。初めての妊娠でみくりも「つらい」、でもそのパートナーである平匡だって適応しようと必死で「つらい」。真面目な人ほど、誰かに比べたら「自分なんて」と言いがち。だが、それぞれ「つらい」ものは「つらい」。

 本当は男性同士のコミュニケーションが、もっとスムーズになって、お互いにケアできる関係性になればいいのだが、残念ながらまだ『逃げ恥』でそれが描かれるほど、社会の正解は導かれていない。しかし、この“女性も男性も「つらい」を共感していくことができたらもう少し優しい社会になるのでは?”、というヒントは確実に世の中に発信されたはずだ。

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