『ジオラマボーイ・パノラマガール』インタビュー
瀬田なつき×山田杏奈が切り取った“いま”しかない東京 「ちょっとしたパラレルワールド」
岡崎京子の同名漫画を映画化した『ジオラマボーイ・パノラマガール』が現在公開中だ。東京で暮らす平凡な女子高生・ハルコが、橋の上で倒れていた神奈川ケンイチへのひとめぼれをきっかけに少女から大人へと少しずつ変化・成長していく模様が描かれる。
ハルコを演じた山田杏奈、ケンイチを演じた鈴木仁を中心に、森田望智、滝澤エリカ、若杉凩らが東京の景色と同化しながら瑞々しい世界を彩っている。監督を務めたのは、『5windows』や『PARKS パークス』など、これまでも東京の景色を切り取ってきた瀬田なつき。
互いに一緒に作品を作ることを熱望していたという瀬田なつき監督と主演の山田。2人はドラマ『セトウツミ』(テレビ東京ほか)で初めて顔を合わせているが、そこでのやり取りは一瞬。しかし、瀬田監督は山田に強く惹かれるものがあったという。【インタビューの最後に山田杏奈のチェキプレゼントあり】
岡崎京子の原作をいま映画化する意義
「ただでさえ撮影テンポが早いドラマの現場ですが、山田さんとは1日だけの撮影だったこともあり、一言二言しか話せなかったんです。でも、物語で一瞬見せる山田さんの笑顔が印象に残っていて、それと、もっと彼女から何か引き出せたんじゃないか、という思いがありました。山田さんが演じたハルコは平凡なようでいながら、内面が少しずつ変化していく複雑なキャラクターです。軽やかさの中に重さを持っていて、現実にいそうでいない。そんな難しい役柄を山田さんは自由に、大胆に、そして繊細に演じてくれました。山田さんでなければ本作は成立しなかったと思います」(瀬田なつき)
山田にとっても瀬田監督作品への出演は以前から熱望していたものだったそうだ。
「『PARKS パークス』は大好きな一作なのですが、瀬田さんの作品は女の子がすごく魅力的に映るんです。だから、瀬田さんの撮る映画の世界観に入れることはうれしかったですし、現場も本当に楽しかったです。本作でもハルコの動きひとつひとつに自分では思いもよらなかった動きや仕草を現場で付けてもらったんです。どう映るんだろう?と現場で思っていたのですが、完成した映像を観たら想像以上でした。ハルコは動物的な感覚を持った子で、これまで演じてきた役とは違うものでした。思ったもの、感じたものをそのまま出すというのはハルコを演じたときはすごく意識していた部分なので、それは別作品でも生きているような気がします」(山田杏奈)
原作が発表されたのは、1988年。バブル景気に湧く東京が舞台となっており、閉塞感漂う現在とは状況も異なる。“いま”の映画にするためにどんなことを考えたのだろうか。
「プロデューサーの松田(広子)さんと樋口(泰人)さんから提案されたんですが、岡崎さんの原作をは読んでみて、やりたいですと即答しました。岡崎さんの作品はどれも言葉の選び方がすごく素敵なので、現在の東京の街を登場人物が駆け巡る中に言葉を散りばめていくことができればと思いました。渋谷の道玄坂や宮下公園付近、東京オリンピックの選手村が設立される前の豊洲の海辺付近などでは、少人数で街に溶け込みながら、こそっと撮影を行ったりしました。いずれも撮影から1年以上の時間が経ち、劇中の風景とはまったく違う景色になりました。あのときにしか撮れなかった東京、そして山田さんをはじめとした出演者みんなの輝きを切り取ることができたのは大きかったです」(瀬田)
「原作から時代は大きく変化していますが、高校生たちの感覚は意外に変わっていないのかなとも感じました。携帯を通してつながる出会いや言葉よりも、偶然の出会いのほうが必然性を感じるところとか。ハルコが精一杯のおめかしをしてクラブに乗り込んでいくところ、一目惚れしたケンイチに勝手に運命を感じてしまうところなど、若者だからこその勢いみたいなものはいつの時代も共通しているように思いますし、人を思う気持ちはどの時代も変わらないんじゃないかなって」(山田)
本作の白眉となるのが、ハルコがケンイチとの出会いを期待して訪れたクラブでのワンシーン。ケンイチが恋い焦がれるマユミ(森田望智)にメイクを施されるなど、ひとつの出来事をきっかけにハルコが少女から大人へと変わる瞬間が映し出される。
「一瞬で変わったというとそうではないんです。マユミに化粧をしてもらって、マユミがケンイチとキスしているところも見てしまって、どんどんハルコの気持ちが変わっていく。望んでというよりも、ハルコがハルコでいるために変化せざるを得なかったというか。そんなときに、あの年頃の女の子は大人になるのかなって。瀬田さんの演出はもちろん、スタイリストさんやメイクさんのおかげで自然とハルコとしての変化を演じることができたと思います」(山田)