小川紗良が改めて感じた映画制作の楽しさ 「本当にかけがえのないもので愛おしいもの」

 「いつまでもこんな時間が続けばいいのに」。家族、友達、恋人との時間、自分一人で夢中になれる時間……誰もが一度は思ったことがあるのではないだろうか。映画『ビューティフルドリーマー』は、そんなかけがえのない大切な時間の幸せさを噛み締めさせてくれる一作だ。

 舞台は美術大学の映画研究会。部員のひとりが不思議な夢を見たことから、部室の片隅にあった古い脚本と演出ノート、そして16mmフィルムを見つける。未完成のままになった作品を彼らは完成させるべく、映画作りに奔走していく。「映画制作は毎日が文化祭」と例えられることがあるが、本作にもまた夢の中にいるような浮遊感と、かけがえのない青春が詰まっている。

 そんな本作の主人公・サラを演じたのが、俳優として、そして映像作家としても活躍としても活躍を続けている小川紗良だ。セリフの半分以上は俳優たちの即興芝居、「エチュード=アドリブ」で構成されているという本作。本広克行監督のもと、彼女はどんな思いで作品に臨んだのか。

「人と人の結びつきを感じていただける作品」

ーー『ビューティフルドリーマー』は「監督絶対主義」で映画を制作する映画の実験レーベル「Cinema Lab(シネマラボ)」の第1弾作品となります。

小川紗良(以下、小川):現在の日本映画界はさまざまな制約が多く、どこか閉塞感を感じていました。どうしても原作ありきの作品が多く、オリジナル作品の企画が通りづらい現在の状況で、こういった企画が生まれたことはひとつの突破口になるのかなと思います。映画に携わる一人としても、「シネマラボ」がどんな作品を生み出していくか、これから非常に楽しみです。そして、そんなプロジェクトの第1作目に出演させていただけることは本当に光栄でしたし、期待に応えたいと強く思いました。このプロジェクトが今後も続いていくためにも、本作をたくさんの方に届けることができればと思います。

ーー今回の主演も本広克行監督からの指名で決まったそうですね。

小川:本当に光栄でした。本広監督は私の監督作も観てくださっていて、実際に映画研究会で映画を撮っていたことも知ってくださっていたんです。私にとって今回の撮影は大学時代を追体験するような日々でした。

ーー映画作りについての映画ということで、映画の制作現場を知っている人には“あるある”が山積みで、知らない人にとっては憧れを抱く楽しさが詰まっている作品になっていると感じました。

小川:私自身も映研で楽しいことも本当にどうしようもないことも経験してきました。お菓子の買いすぎで予算がなくなっていたり、肝心のシーンが撮れていなかったり、撮影中は“あるある”だなと思っていました(笑)。ただ、撮影後に誰も予期しなかったコロナ禍がやってきて、あんなくだらないことも本当にかけがえのないもので愛おしいものだったなと感じたんです。映画制作は関わる人数も多いですし、関わる期間も長くて、お金もかかります。すごく人と人との関係性で出来上がっていくものなんですよね。出演していても、自分が監督を務めていても、それはひしひしと感じます。人の距離が近いからこそ揉めることもあるんですが、そういったコミュニケーションを重ねていく中でひとつの作品は出来上がっていきます。今は人との距離を考えなくてはいけないですが、改めて映画制作の楽しさ、人と人の結びつきを感じていただける作品になっているのではないかと思います。

ーー本作は細かい台詞が事前に用意されておらず、「エチュード=アドリブ」によって制作されたようですが、通常の台本がない難しさはありましたか?

小川:エチュードによるお芝居は初めての経験でした。映研の皆とも本作がはじめましての関係だったので、本当にどうしたらいいのか分からない状況で。初めは全員戸惑いましたし、悩むことも多かったのですが、仲を深めていく過程でチームワークが出来上がり、その力で乗り越えることができました。撮影中は本広監督からの演出は特になく、台詞回しや表情など、ほとんどの部分を私たちに委ねてくださいました。撮影前に稽古の時間がしっかりあったのも大きかったです。現場では休憩時間もトランプで遊んだり、皆でご飯を食べに行ったり、カメラがまわっていない素の状態のときもずっと一緒にいたので、めちゃめちゃ仲良くなっていました。稽古から撮影を通して、本当の仲の良さが映画の中にも出ているのではないかなと思います。

ーー映研メンバーの立ち位置とキャラも絶妙でした。

小川:本当に皆の演じる役柄とキャラクターが合っていたと思います。劇中でプロデューサーを務める(藤谷)理子ちゃんはしっかりしているけど、ちょっと抜けているところがある点は役柄と同じだったと思います(笑)。カメラマンの(神尾)楓珠は色んな作品で大活躍していますけど、中身は子供っぽいところがあって隙があるんですよね。だから皆でいじっていました(笑)。録音のウッチー(内田倭史)は演劇をやっていたこともあり、即興芝居でみんなの間ができてしまったときにサポートしてくれる存在でした。助監督の(森田)甘路さんは年齢は少し上なんですが、心はすごく若々しく本当に優しくて年の差もまったく感じませんでした。劇中同様に現場でもムードメーカーとして盛り上げていただきました。衣装の(ヒロ)シエリは本当にあのまんまです(笑)。いるだけでその場が面白くなるキャラクターでした。本当にいい仲間に恵まれて、この皆で作品を作ることができたことは幸せです。

ーー“役名”ではありますが、役名が自分の名前と同じなのはどうでしたか?

小川:あくまで演じてはいるんですが、休憩中の呼び名もそのまま使えるのはすごくやりやすかったですね。

ーー小川さん自身が監督を務めていることもあり、本作を観た方はサラの監督姿は小川さんの普段の姿と思う方も多い気がします。サラはなかなか無茶な要求もしますが(笑)。

小川:“役”として演じているので、私が監督をしているときとは違うと思います。あそこまでの無理難題は監督としては言わないです(笑)。もちろん、台詞は即興でやっているので、口調や行動は自分に近い部分はいっぱいありましたけど。本作を通して、観客の皆さんに「小川紗良はこんな性格なんだ」と思ってもらえたら役者としてはうれしい限りです。