ダルデンヌ兄弟とイオセリアーニ監督の共通項とは “個と社会”の在り様を見つめる4作品を解説
『皆さま、ごきげんよう』(2015年)
登場人物は全員変わり者。社会の周縁でたくましく、しなやかに生きる者たちへの人間賛歌。「集大成」という言葉を使ってもバチは当たらないであろう、イオセリアーニの真髄がぎゅうぎゅうに詰まった充実作だ。
物語はフランス革命の様子に始まり、別の時代の戦地から、まもなく現代のパリに飛ぶ。そこもまた盗みや貧困に溢れる、混乱に満ちた世界。とあるアパートには、武器商人を陰で営んでいるという噂の管理人リュファスや、頭蓋骨の収集が趣味である人類学者のアミランらが住んでいる。彼ら悪友のふたりは、ホームレスたちの強制撤去に対する反対運動に参加するのだが……。
なにげに歴史を俯瞰する視座は、グルジアの中世から内戦時代までを往還する『群盗、第七章』(1996年)を彷彿させる。日常の淡々とした営みを見つめながら、軽みと陽気さ、反骨と風刺を同居させる独特の世界像は、やはり完全に健在だ。
「家を奪うな。隣人を愛せ」という劇中のスローガンにも顕われているように、イオセリアーニの人間主義は「制度による抑圧」を最も嫌う。彼は綿密なストーリーボード(絵コンテ)を描いて、周到に映画を設計するタイプだが、しかし決してクローズアップや切り返しを使わない。それは人間の営みを操作して、分断する手法だから。この「外柔内剛」な名匠の姿勢は驚くほど思想的に一貫しているのである。
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■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。
■配信情報
『イゴールの約束』『ロゼッタ』『汽車はふたたび故郷へ』『皆さま、ごきげんよう』
ザ・シネマメンバーズにて配信中
ザ・シネマ公式サイト:https://www.thecinema.jp/