ダルデンヌ兄弟とイオセリアーニ監督の共通項とは “個と社会”の在り様を見つめる4作品を解説
『ロゼッタ』(1999年)
今度の主役は孤独な少女。『イゴールの約束』の「型」を尖鋭的な強度にまで高め、おそらくダルデンヌ兄弟の全作品中でも沸騰点と呼べるボルテージに達した長編4作目だ。
林の中のキャンプ場にあるトレーラーハウスで、酒浸りの自堕落な母親と暮らすロゼッタは、ある日、何の理由もなく工場をクビになってしまう。
突然失業したうえ、母の面倒も見なければいけない重圧が少女にのしかかる。そんなロゼッタに、ワッフルスタンドで働く青年リケが、優しい心遣いで援助の手を差し伸べるのだが……。
常に戦闘状態の顔つきをしているロゼッタは「ライオットガール」のひとつのアイコンとも言えるだろうか。貧困と毒親に苛まれる苛烈な環境で孤立しながらも、世界の淵に踏ん張って社会に挑み続ける彼女。しかし必要なのは怒りよりも、柔軟な扶助の「つながり」である……これは『万引き家族』(2018年/監督:是枝裕和)など、世界的に格差が広まる中で、現在も重要性がどんどん増している主題だ。
本作は公開当時、社会現象を巻き起こし、本国ベルギーでは「ロゼッタ・プラン」(ロゼッタ法)という青少年雇用のための負担を軽減する法律が成立した。「映画が現実を変えた」好例。そして第52回カンヌ国際映画祭ではパルム・ドールと、主演のエミリー・ドゥケンヌが女優賞のW受賞。以降、ダルデンヌ兄弟は同映画祭の常連受賞者(というか、ほとんど無双の覇者状態)になっていくが、むしろ『ロゼッタ』の作風が21世紀の「カンヌ・ライン」の傾向を決定づけたという方向で、その影響力を見るほうが興味深い。
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『汽車はふたたび故郷へ』(2010年)
オタール・イオセリアーニの核にあるのはアナーキズムである。最初期の『四月』(1961年)や『落葉』(1966年)をはじめ、旧ソ連体制下でずっと自作が上映禁止の憂き目に遭ってきた彼(それでも本人は「私はいつもやりたいことを何とかやっていましたよ」と優雅に嘯くのだが)。イオセリアーニが説く「幸福論」とは、常に社会のコードから外に出るというラジカルさを含んでいる。ただしそれを扇動的ではなく、まろやかな味わいでそっと差し出すのだ。彼の作風は「ノンシャラン」(のんき)との言葉でよく形容されるが、チルアウトしながらドロップアウトに心地よく導いていく「穏やかな過激さ」が彼の特質である。
本作はそんなイオセリアーニの自伝的要素を込めた異色かつ貴重な一本。グルジアに生まれ、映画監督になった主人公ニコの奮闘を描く。ソ連では検閲や思想統制に縛られ、自由を求めてフランスに渡ると、商業主義を振りかざすプロデューサーとの闘いに苦戦する。それでもニコは自分の意志を頑なに貫いていく。
『素敵な歌と舟はゆく』(1999年)や『月曜日に乾杯!』(2002年)といった「ノンシャラン」な人気作の裏にある、作家の硬質な精神を知ることができる青春譚だ。原題の“Chantrapas”(シャントラパ)とは「役立たず」「除外された人」の意味。ニコ=自分のような亡命した映画作家たちを指している。
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