ダルデンヌ兄弟とイオセリアーニ監督の共通項とは “個と社会”の在り様を見つめる4作品を解説

“個と社会”の在り様を見つめる4作を解説

 サブスク系ミニシアター、ザ・シネマメンバーズで配信される作品を解説する連続企画。11月の今回は、ダルデンヌ兄弟とオタール・イオセリアーニの4作を紹介する。

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ダルデンヌ兄弟とイオセリアーニについて

 ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ(兄は1951年生まれ、弟は1954年生まれ)。旧ソ連のグルジア共和国(現ジョージア)出身で、パリに拠点を移しているオタール・イオセリアーニ(1934年生まれ)。

 フランス語の使用、さらに素人俳優を好む――などといった共通点を有するものの、およそ作風も世代も異なるこの2組の映画作家を併記した時、果たしてどういったイメージが浮かんでくるか?

 ダルデンヌ兄弟は厳しい現実をストイックに描いているが、まだ未確定な若い世代に未来への可能性を託し、主人公が何を選択するのかを見定め、その変容にかすかな希望の光を見出す。

 イオセリアーニはおおらかで楽観的な雰囲気。だがそこには反体制や社会的なテーマが盛り込まれ、物質主義への痛烈な批判があり、窮屈に縛られた既成の価値体系の向こう側へと誘ってくれる。

 一見対照的な作家なのだが、ともに「個と社会」の在り様を厳しくも優しい眼差しで見つめ、生身の人間性をつかもうとする肯定性への意志で共通しているのではないか。

 そんな現代の名匠たちに通底する精神を知れる今回のプログラム。彼らの個性を堪能できる傑作の4作を紹介したい。

『イゴールの約束』(1996年)

 ダルデンヌ兄弟の「型」が定まった一本。数々のドキュメンタリーを撮ってきた彼らがフィクション(劇映画)の道に転じ、初めて納得のいく製作環境で作り上げた長編3作目。音楽(劇伴)を使わず、手持ちカメラを用い、簡素ながら練り込まれた物語や設計に生命を宿らせていく。その後のダルデンヌ兄弟のみならず、どれだけ後進の映画作家たちがこの「型」をテンプレートとして重宝してきたか!

 主人公のイゴールは15歳の少年。彼は不法移民の斡旋売買を行う父親を手伝っている。この違法な仕事で生計を立てるシングルファーザーのもとで少年の世界把握や視野は狭く規定され、盗みを働いても罪の意識がない。

 そんな折、移民局からの査察という切羽詰まった状態で転落事故を起こしてしまったアフリカ移民の男性と、ある「約束」を交わす。イゴールはそれを守るため、初めて父親に逆らい、自主性を伴った果敢な行動を起こしていく。

 ベルギーという移民国家の裏側にある闇や澱みに焦点を当てた内容だが、いわゆる告発の態度とは遠い。思春期という未分化の状態にある主人公の「自我のめざめ」が、新しいステージの端緒だと見る。より良い世界のための答えではなく、それを担うべき者たちにバトン(ヒント)を手渡すのだ。

 ネオリアリズモやシネマ・ヴェリテの手法を受け継ぎ、現実の生々しさをストリートのスケッチとして抽出しつつ、作劇はむしろウェルメイドな――端正に構成された物語をソリッドに提示する。無駄のない完璧な作品。イゴールを演じた撮影当時14歳のジェレミー・レニエは、再び主演を務めた『ある子供』(2005年)以降、ダルデンヌ兄弟の作品の常連となっている。
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