映画『鬼滅の刃』大ヒットの“わからなさ”の理由を考察 21世紀のヒット条件は“フラットさ”にあり?

映画『鬼滅の刃』大ヒットの“わからなさ”

フラット化するメガヒットの構造

 いずれにせよ、20世紀末の大ヒット映画、たとえば『ジュラシック・パーク』(1993年)や『タイタニック』、そして(これは厳密には21世紀の映画だが)『千と千尋』などと、SNS登場以降の21世紀の映画、たとえば『アナ雪』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』、そして『鬼滅』との決定的な違いは、おそらくはこのあたりにあると思う。

 スピルバーグや宮崎駿には、替えがたい大文字の作家的個性があり、それがどこか彼らの興行的な成功とも必然的に結びついていた。少なくとも、批評家を含む多くの観客の側にはそのように信じられる余地があった。したがって、作家・作品を批評することとその興行的な成功の理由(意味)とを重ねあわせて考えることがなんとなく自然に繋がる感触があった(たとえば、『千と千尋』で宮崎が「カオナシ」に込めた意図から時代の要請を解釈してヒットの構造を説明するなど)。いいかえれば、かつてだったら作品にヒットの理由(解釈)を読み込みうるような意味の「起伏」が存在した。しかし、『アナ雪』や『アベンジャーズ』、そして『鬼滅』にはそのような解釈のフックを見つけることは格段に難しくなっている。作品の表面はのっぺりとしていて、ふわふわと掴みどころがない。

 むろん、かつての映画批評や文芸批評の手つきを動員して、映画『鬼滅』の大ヒットの時代的な「意味」について論じてみることはできるだろう。たとえば……奇しくも平成から令和への元号の端境期と作品世界との連動に注目してみるのはどうか。テレビアニメ第4話「最終選別」での手鬼の改元についての台詞がちょうど現実の改元のタイミングと重なって話題になったことは知られているが、他方で、『鬼滅』は大正時代を舞台にした鬼が登場する「偽史」として、一種の「伝奇ロマン」の趣向も含んでいる。実際に近代日本の大衆的な伝奇小説はまさにその大正期に華開いたのだった。またその後、伝奇ロマンは昭和末期の1980年代にふたたび一大ブームを迎えるが、その旗手のひとりでもあった笠井潔がかつて『空の境界』(2001年)をめぐって論じたように(「偽史の想像力と「リアル」の変容」、『探偵小説は「セカイ」と遭遇した』南雲堂所収)、そのジャンルは天皇制との時代的な緊張関係(改元!)のうちに書かれ、読まれていたといえる。つまり、新たな近代伝奇の起源の時代(大正)を舞台にし、21世紀に現代的な伝奇ロマンとして描かれた『鬼滅』がまさにこの令和への改元の時期に大きな支持をえたのは必然だったのだ……うんぬんというように。しかし、そうした作品の読み=意味づけは、もはや『鬼滅』という作品の持つ「リアリティ」=ヒットを何も支えていないだろう。

 そもそも『アベンジャーズ/エンドゲーム』も『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』も、先ほども触れたように、単体で完結した作品ではなく、長大な物語の一エピソードというパッケージが、そののっぺりとした感じを如実に象徴している。それらは最終的には、ヒットしたからヒットしたのだ、としか言えないようなトートロジー的な回路に絡みとられている。いや、言い方を代えれば、今日のメガヒット作品の条件とは、むしろそうした過剰な「意味づけ」(深さ)こそを受け付けない、あらゆる「投機」のチャンスに開かれた「フラットさ」が求められるとさえいえるだろう。数あるジャンプマンガの定型(王道)をほどよく折衷し、昇華した『鬼滅』はじつはそのフラットさにぴったり適合しているのだ。付け加えれば、『鬼滅』のはらむそうしたフラットさは、今回の劇場アニメでいえば、作中で、本来抑圧されて見えないはずの炭治郎や煉獄らキャラクターの「無意識領域」がこれまたのっぺりと視覚化(表層に露呈)されてしまう表現に図らずも具現化されているようにぼくには見えた(という解釈もまた上滑っていくのだが……)。

 映画『鬼滅』がこの先、興行ランキングをどこまで駆け上がっていくか、わからない。そして、『鬼滅』がなぜこれほどまでの爆発的な大ヒットとなったのか、結局のところはぼくには「わからない」し、その問いに意味があるのかも「わからない」。ただ、21世紀カルチャーのヒットの動向を俯瞰したとき、その「わからなさ」がひるがえって『鬼滅』ヒットの重要な部分を担っていることは確かなように思える。

■渡邉大輔
批評家・映画史研究者。1982年生まれ。現在、跡見学園女子大学文学部専任講師。映画史研究の傍ら、映画から純文学、本格ミステリ、情報社会論まで幅広く論じる。著作に『イメージの進行形』(人文書院、2012年)など。Twitter

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる