夏帆、妻夫木聡、柄本佑、間宮祥太朗 映画『Red』で輝きを放った役者たち

『Red』で輝きを放った役者たち

 2020年2月に公開された映画『Red』のBlu-ray&DVDが10月2日に発売される。本作は、デビュー作『シルエット』や2017年に松本潤×有村架純で映画化された『ナラタージュ』など、たゆまぬ筆力と卓越した心理描写で儚く脆い恋愛模様を描き、女性読者から圧倒的な支持を得る直木賞作家・島本理生の同名小説を映画化したもの。三島有紀子監督が美しい色彩とともに、誰もがうらやむ夫、かわいい娘がいて何不自由ない生活を送る主人公が10年ぶりに元恋人と再会したことによって自身の“生き方”を見つめ直していく姿を描く。

 主人公。村主塔子を演じるのは、『ビブリア古書堂の事件手帖』以来約2年ぶりに三島監督とタッグを組む夏帆。注目したいのは、彼女の表情の変化だ。塔子は、裕福な家庭で育った稼ぎの良い夫との間に一人娘をもうけ、世話好きな義母と四人で暮らしている。笑顔の絶えない穏やかな生活。幸福そのものに映る塔子の日常には、妻よりも義母の料理を好んで食し、夜の生活ではオーラルセックスで済ませる夫の無神経な態度によって、周囲には見えづらい歪みが生じていた。そんな時、再会したかつての恋人·鞍田秋彦。彼の紹介で、再び設計事務所で働き始めた塔子の瞳がどんどん色付いていく。

 「彼女(夏帆さん)の目はビー玉みたいで何も見ていないように感じる時があり、感情が生まれるとそこに強くて深い力が宿り、すべてを見透かしているように見える」 と三島監督が語っていたように、目に見えて分かる塔子の変化を夏帆は表情で表現しているのだ。映画の中で、塔子が自身に想いを寄せる設計事務所の同僚・小鷹(柄本佑)にキスを迫られ、一度拒止した上で「するならちゃんとやって」とからかう場面がある。その姿は少女のようにあどけなく、それでいて艶やかな色気も混在し、清純派女優のイメージから一転、近年『ピンクとグレー』(2016年)や『友罪』(2018年)の中で過激なシーンもこなしている夏帆の魅力が余すことなく詰め込まれている。

 一方、10月から放送がスタートする『危険なビーナス』(TBS系)の主演も控えている妻夫木聡が演じた鞍田には、終始シニカルな空気感が漂う。本作の中で、塔子が彼を「一緒にいても一人で生きている気がする」と称する場面があるが、鞍田という男はまさしくそういう人間だ。『Red』の映画化にあたって、最初にキャスティングされたのが妻夫木だったという。三島監督は「“塔子の生き方を問う存在”の鞍田が魅力的でなければ、この物語は成立しない。しかもセリフよりも表情や行動で伝えたい。演技力のある妻夫木聡でなければ、と思いました」という妻夫木のキャスティング理由を語っている。塔子を半ば強引に愛欲の渦へと巻き込む原作の鞍田像とは異なり、映画で描かれる鞍田は孤独をたずさえた瞳で塔子の身も心も絆していく。

 すべてを諦めているようで、心から愛する者と生を全うすることへの欲望が溢れ出しているのが印象的だ。寄せては返す波のように、簡単には掴めないからこそ執着してしまう鞍田の魅力を前提に展開される本作。30代で新境地を切り開いた李相日監督作品『悪人』『怒り』を経て、深みを増した妻夫木の色気を堪能してほしい。

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