暗い雰囲気の中で古田新太がコミカルなキャラクターに 『エール』に漂い始める戦争の影

『エール』に漂い始める戦争の影

 昭和12年、日中戦争が勃発。国民の生活に段々と戦時色が漂い始める。NHKの連続テレビ小説『エール』が第15週の初日を迎え、裕一(窪田正孝)がヒット曲を生み出すも、彼らの日常には戦争の影が忍び寄る。

 裕一は新聞で出征していく人のための歌「露営の歌」を見つける。裕一たち家族は以前、出征する人と見送る家族の姿を目にしていた。裕一は、家族を残して戦争へ行くつらさ、残された家族の心細さを思い、その歌にメロディーをつけていく。裕一がコロンブスレコードにその曲を持っていくと、偶然廿日市(古田新太)が「露営の歌」の作曲家を探しているところだった。裕一の曲は、音楽業界の「国威高揚、忠君愛国」という時流とは正反対の曲調だったが、哀愁を帯びた短調の「露営の歌」は国民の心を捉えていく。

 「露営の歌」は出征する兵士の見送りに歌われるようになったことで爆発的な大ヒットとなり、裕一は売れっ子作曲家の一員となる。しかし、ヒット曲を生み出したことは祝うべきことなのだが、物語のあちこちから戦争の暗い影が感じられる。「露営の歌」を歌いながら出征する人を見送る人々の決して明るくない表情。陸軍に勤める智彦(奥野瑛太)は新聞に掲載された「露営の歌」の広告を硬い表情でじっと見つめ、路地裏で遊ぶ子供たちは銃を模したおもちゃを持って軍人が行進するのを真似ている。

 そして、裕一がヒット記念に音(二階堂ふみ)と華(田中乃愛)にオルガンを贈ったり、裕一の服装が心なしか良いものになったように見えることもまた、不穏さを際立たせる。ヒットしたことを純粋に喜ぶ姿は微笑ましいが、この50万枚のヒットの裏には「戦争」の2文字がある。現代を生きる私たち視聴者は、この時代に何が起きたのかを知っているが、この時代を生きる裕一は、まだ何も知らない。

 暗い雰囲気が漂い始めた第15週だが、裕一がヒット曲を生み出したことで態度を急変させる廿日市はコミカルで面白かった。裕一が曲を持ってきたときには「B面だし! 時間ないし! 仕方ない、これで行くか」と適当な態度をとっていたが、ヒットすると、裕一を「古山先生」と呼び、終始丁寧語で接する。ちゃっかりしているがどうも憎めないキャラクター像は、古田の演技があってこそ。Twitterでは「廿日市の見事な手のひら返しでしたね(笑)」などの声があがり、一時「廿日市さん」がトレンド入りする瞬間もあった。

■片山香帆
1991年生まれ。東京都在住のライター兼絵描き。映画含む芸術が死ぬほど好き。大学時代は演劇に明け暮れていた。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)~11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、中村蒼、山崎育三郎、森七菜、岡部大、薬師丸ひろ子ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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