『マッドマックス 怒りのデス・ロード』鑑賞前に押さえたい8つのポイント その成功の要因を探る

『マッドマックス』を讃えるべき8つの点

 5年前。あまりにも最高すぎて、銀色のスプレーを口元に振りかけんとする勢いで映画ファンが狂いに狂った映画が公開された。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だ。前作から長い間を開け、30年ぶりとなるシリーズ4作目という立ち位置でありながらも、『マッドマックス』というものを知らない人が観ても十分に楽しめる怪作。エクストリームすぎて、「これがアクション映画だ讃えよ!」と顔面をV8インターセプターで轢き殺された気持ちになる。

 砂漠を彷徨う流浪の男、マックスが突然野蛮集団に襲われ、シタデルと呼ばれる砦のコミュニティに連れて行かれる。そこは全ての資源は独裁者イモータン・ジョーが支配し、水を欲する民や彼を狂信する神風特攻隊的兵士ウォーボーイズが平伏していた。しかし、ジョーの部下であるフュリオサ大隊長が遠征をした際に彼を裏切る。彼の所有する子産み女ことワイブズたちを連れて逃げ出したのだ。そこでイモータンは全走力をかけて彼女らを追う。マックスもまた、衰弱したウォーボーイズのニュークスの“血液袋”として同行を余儀なくされ、この戦いに巻き込まれるというのがあらすじ。

 しかし何を隠そう、本作は言ってしまえば“行って帰ってくるだけ”の映画。それでもアカデミー賞10部門ノミネート、最多の6部門受賞という偉業を成し遂げたのはなぜか。V8に因んで、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の讃えるべき8つのポイントについて書こう。

1.過去シリーズ3作を讃えよ

 まず『デス・ロード』の世界観を120%理解するには過去作を振り返るのがマストだ。

『マッドマックス』

 記念すべき1作目『マッドマックス』は1979年に公開され、世界中で大ヒット。オーストラリア映画の世界進出のきっかけともなった。舞台設定はまだ数年後の近未来ということで、まだ文明社会が残っている。ダイナーも、クラブも、警察署も、アイスクリームショップだってある。しかし退廃感はすでにあり、警官殺しや婦女暴行も厭わない野蛮な暴走族が蔓延っていた。そこに、追跡者として改造されたV8インターセプターを乗りこなす怖いもの知らずのメル・ギブソン演じるマックスの登場だ! ハイウェイで奴らに向かって正面衝突する彼のかっこよさは、すでに狂気じみていた。

 この1作目の重要な点は「マッド(怒れる)マックス)」誕生譚にある。彼の妻と息子が逆恨みした暴走族に殺されてしまうのだ。実は、殺されるまでが結構長い。その時間経過がリアルすぎて、いつどんな酷いことをされるのか観客としては気が気でならない。可哀想で観ていられないのだ。そして、悲劇が起きる。暴走族は不起訴になる故に捕まえても釈放となるのがオチだ。法も正義も腐りきっている、そんな世界で怒り狂ったマックスは一人、V8エンジンをかけて彼らを討伐する。特に本作では暴走族の敵が死ぬ時、目玉が飛び出るという印象的な演出が、『デス・ロード』のトラウマ回想シーンで一瞬出てくる。

『マッドマックス2』

 『マッドマックス2』は、第三次世界大戦が起き、石油が枯渇した世界が舞台。徐々に土地が砂漠化していき、皆ガソリンを求めて車狩りをしていた。妻子を失い、あてもなく荒野を愛犬と旅するマックスは、本作で地域を牛耳る暴君と民間人の抗争に巻き込まれる。この映画では、元警官でありながら正義なんてどうでも良くなってしまった彼がアンチヒーローとして人々を救い、人を再び信用する「英雄誕生譚」が描かれている。道中出会い、最初は殺し合っていたキャプテンと共闘して人々に自由を与える。『デス・ロード』は実はこの2作目と全く同じ、英雄誕生譚なのだ。巻き込まれたマックスがフュリオサと背中を預け合い、ワイブズをはじめとする砦の人々を自由にしようとする。

『マッドマックス/サンダードーム』

 『マッドマックス/サンダードーム』は低評価の印象があるが、実は一番『デス・ロード』にヒントを与えた物語かもしれない。まず今回の敵の親玉・アウンティが黒人女性(しかもティナ・ターナー)という先進的な設定。これは女でありながら唯一ジョーの直属の隊長として指揮を執るフュリオサのモデルとも考えられる。そして彼女の仕切る街に我が物顔でふんぞり帰るマスターは小人の知識人、その相棒のブラスターは、怪力だが子供の心を持つ障害者だった。この二人は『デス・ロード』で言うなれば、イモータン・ジョーの二人の息子に当たるキャラクターだ。フュリオサの裏切りをすぐに見抜き、父に助言を与える立場でいる小人のコーバスと、大きな体に対して赤ん坊のようなリクタスである。さらに、アウンティに追放され砂漠で瀕死状態だったマックスを助けた子供たちの中に一人、身体に白塗り、目元を骸骨のように黒くした言わばウォーボーイズの前身的な男の子が登場する。彼も自分のスペースで何かを「崇拝」しており、その対象が骨なのでそれに似た格好をしていた。ジョーの白塗りを真似て崇拝するボーイズとかぶる。

 実は『サンダードーム』がシリーズの中で低評価である理由は、ファンが何よりも求めているカーチェイスシーンが他の2作品に比べて全くなく、アクションは肉弾戦がメインとなっているからである。従来の『マッドマックス』ファンからすれば、物足りないのだ。しかし、それがない分ダイアログや設定が細かく、子どもや小人といった社会的に弱者とみなされる者達が野蛮な大人を打ち負かし、新たな世界を再建するというエンディングは非常にシンボリックであり、メッセージ性の強い作品となっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる