『MIU404』は“0地点”にいる私たちの物語だった “世界のズレ”が大きくなる前に立ち止まる意義

『MIU404』は0地点にいる私たちの物語

 「町がどんどんきれいになって」いったことも、オリンピックに向けた区画整備だけでなく都市自体の自浄作用の一つであったと言える。「きれいになる」「新しくなる」「変化していく」。それを伊吹のようにポジティブに受け入れることも大切だが、変わりゆく都市のその前の姿を心に留め続けることができたらとも思う。

 「金持ちしか入られへんオリンピックの開会式」の話をしながら「無償ボランティアの募集」を呼びかけ「復興五輪」を謳うテレビ画面を見つめていた久住。彼は、「汚いもんみんようにして、自分だけはきれいやと思っている正しい人ら、みんな泥水に流されて全部なくしてしまえばええねん」と言った。そして「神様はもっと残酷やで。指先一つ、一瞬で人も町も全部さろてまう。全部のうなって、それでも10年経てばみんな忘れて終わったことになってる。頭の中の藻屑や」と東日本大震災を暗示する。

 『MIU404』は、「Not found(存在しない)」とされた人々を描いた。それは「東京オリンピック」という一大イベントを前に浮足立ち、変わりゆく都市の喧騒の片隅で、忘れ去られた人や場所のこと、そして、見て見ないふりをされ、一掃されれば存在しなかったことにされるような弱者に光を当てるためにあったのではないか。そのオリンピックもなくなってしまった2020年、皮肉にも新型コロナウイルスには、世界的な経済活動の停滞により温室効果ガスの排出量が一時的にではあるが急減するという思わぬ自浄作用もあったと言う。いかなる物事にもいい面と悪い面がある。最終回における「洗い流す」という言葉にいい面と悪い面があったように。

 人も都市も立ち止まろうとしない。失っては作り、また失っては作り。「0地点」に立たされたコロナ禍の今も、時は容赦なく前に進み、都市も人間も変化を続ける。それでも、ふと立ち止まって見てもいいのではないか。世界のズレがこれ以上大きくなる前に。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住。学生時代の寺山修司研究がきっかけで、休日はテレビドラマに映画、本に溺れ、ライター業に勤しむ。日中は書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■作品情報
金曜ドラマ『MIU404』
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/MIU404_TBS/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる